プルメリアと偽物花婿
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今夜はステーキを食べると初日から決めていた。
マリンスポーツで遊んだ日は疲れていて、お腹も空いているだろうから、とホテルの近くの店でがっつり、と。
体調があまり良くないのにステーキなんて大丈夫だろうかという私の心配をよそに、和泉は私の二倍のサイズのステーキを食べた。
私も大きな塊肉をぺろっと食べてしまった。
だけど一日遊びつくして身体は疲れていたから、私たちは夜のワイキキを寄り道せずに夕食後はまっすぐホテルに帰ることにした。
「眠るにはもったいないですし、バルコニーで飲みませんか?」
お風呂から上がり、冷蔵庫からお酒を取り出しながら和泉は提案した。
「うん、そうする」
パッケージが可愛くて購入したコナビールとグラスを受け取って、和泉に続いて私もバルコニーに出た。和泉はリクライニングチェアに寝そべって「この場所最高ですね」と嬉しそうな声を上げた。
私は二人掛けのテーブルにつくと、グラスにビールを注いだ。
「バルコニー結構広いね」
暗くなってダイヤモンドヘッドは見えないけれど、昨日ディナーをしたレストランがライトアップされていて、海をかすかに照らしている。
「きれい」
夜のバルコニーは風が気持ちよく、このままここで眠ってしまいそうなくらい快適だ。
和泉も私の隣にやってきてビールを注ぐ。この旅行中、何度目かわからない乾杯をして一口飲む。柑橘の香りがして飲みやすい。
「和泉、もう体調は大丈夫なの?」
「はい、この通り」
「まあしんどかったらあんなにお肉食べられないよね」
私は笑ったけど、和泉は笑い返してくれなくて。ほんの少し、沈黙が流れた。
「今日はすみませんでした、心配かけて。それに俺のせいで海底歩けなかったですよね。楽しみにしてたのにすみません」
「それは全然いいよ! 体調も問題ないなら良かった」
日に焼けたからか、お酒が入ったからか、和泉の頬は赤く、顔色は良いと思う。少しだけしょんぼりして見えるけど、体調が悪そうには見えない。
「体調の問題じゃないんです」
和泉は暗い海を眺めながら、ぽつりと語り始めた。