プルメリアと偽物花婿

「それで結婚してないって? あ、書面上の話?」
「いや、そうじゃなくて……」

 改めて私たちの関係について訊ねられると、どう答えていいのやら。隣の和泉をちらりと見ると、和泉は相変わらずニコニコしたまま嬉しそうにしている。

「まだ俺の片思いではあるんで、今のところ(仮)の恋人となってます!」
「カッコカリ……? 結婚したのに?」

 菜帆はますます面白そうな表情をして前のめりになる。……ならなくていい……。

「色々あって全部説明してたらランチでは時間が足りないよ」
「簡単に言うと、前向きに結婚を検討してもらってるところですね!」
「結婚したのにぃ? 前向きに検討って、あはは。意味わかんない」

 客観的に私たちの関係を見ると、本当にハテナしかないだろう。一週間で一体なにがあったんだレベルで人生がガラッと変わっているんだから。一言ではとても説明できない。

「でも和泉にとっては良かったね! ほんともってる男だわ」
「はい、本当に結婚できるように頑張ります!」
「菜帆受け入れるのが早くない?」
「凪紗が固いんだよ。凪紗、何も考えず、幸せになるんだ……」
「そうですよ、凪紗先輩。俺に任せてください」

 菜帆と和泉のノリにはまだついていけないけど。菜帆の反応には正直救われた。
 婚約破棄されて、後輩と偽物ウエディングをして、(仮)とはいえ恋人になる。事実だけ並べると変わり身の早い節操のない女だと幻滅されるのではないかと思っていたのだ。

 和泉とハワイについて語っている菜帆を見て、ほっと一息つく。先程までは緊張していて味が感じられなかったご飯をようやく美味しいと思えた。
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