プルメリアと偽物花婿
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ランチからはほとんど記憶がないほどに慌ただしく過ぎた。
一週間も出社していなかったのだから想像通りメールは大量に届いてたし、仕事も膨大な量が溜まっている。和泉も同じようで、珍しく定時に上がらず残業が続いた。
和泉と(仮)恋人になったわけだけど、何か恋人らしいことをする暇もなかった。ランチや仕事帰りに食事をする暇もなく、仕事をしながら咀嚼する日々。ハワイのゆったりとした食事が遠く感じる……現実とはつらい。
一つ変わったことがあるとすると……菜帆の言う通り、和泉と私が揃っていると「おめでとう」と何回か声をかけられたくらいか。
結婚式は事実だし、私たちは(仮)とはいえ恋人なわけで、さらには結婚を前向きに考えている関係だから。否定するのも違う気がして「おめでとう」の意味に気づかないふりをして曖昧に笑うしかなかった。
そして忙しさに拍車をかけるのは引っ越しである。
元々ハワイ帰国の週末に引っ越す予定で、引越し業者を手配していた。ダメ元で業者に交渉すると、引越し先を変更することができたので元々の予定日に和泉の家に引っ越すこととなったのだ。
ハワイに行く前に荷造りはほとんど終わらせていたとはいえ、毎日終電近くまで残業し、帰宅すれば残りの荷造りがある。
この数日間は本当に何も考えられないほど忙しかった。
だから、引っ越し当日。これから和泉との生活が始まるのかと思うと、またしても非現実でどこかふわふわとした気分になってしまう。暇ができると意識してしまう。
『荷造り終わりましたか?』
和泉からのメッセージに『終わったよ、そろそろ業者も到着するみたい』と返信する。
引っ越し作業を手伝うと言われたが……このめちゃくちゃな部屋を見られるのは気が引けて断った。
スマホが震えて確認すると、引っ越し業者からの着信。きっと到着したという連絡だ。私は応答ボタンを押した。
――移動した先で和泉が待っている。現実に戻ってきても、まだ和泉との未来が続いている。