プルメリアと偽物花婿
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「和泉、本当に私と同じ会社で働いてるわけ……?」
「え、なんですか。その質問。毎日隣に座ってるじゃないですか」

 変なことを聞くなぁ、みたいな表情で見ないでほしい。
 だって、どう考えてもこの家は。うちの会社の給料では住めないと思うんですけど……!

 和泉に一緒に住むか、と問われたときに不思議に思うべきだったのだ。
 和泉がさらりと「うち2LDKなんで、先輩の部屋も用意できますよ」と言った時点で。
 だって分譲なら山田さんのように郊外だと思うじゃない。
 和泉の家は会社から数駅のアクセスが良いエリアで、私は賃貸マンションかアパートだと決めつけて、2LDKなら過去にルームシェアや同棲でもしていたのかな、と深く考えていなかった。
 
 だけど、ここは完全に、億ションとかいうやつじゃないだろうか。
 
 所謂わかりやすいタワマンではないけれど、エントランスから廊下まではホテルのようだったし。
 私が通されたこの部屋だって……リビングだけで私の住んでいたマンションよりも広く、シックなモノトーンの家具はどれもセンスが良くまるでモデルルームだ。
 グレーの大理石のキッチンも、食洗器がついているし、コンロも三つあるやつ。揃えられた家電もマットな素材のブラックで統一されている。

 生活感のあまり感じられない部屋に私の段ボールがドカドカと運び込まれた。

「なんでこんな高そうなところに住んでるの……」
「まあ、色々とあって」

 和泉は珍しく言葉を濁す。

「とりあえずお昼食べて荷ほどきしていくかあ」

 私は来る途中で買ってきたおにぎりを見せる。黒いセラミック素材のシックなダイニングテーブルにおにぎりを置くと、コンビニの物なのになんだかお洒落に見えてしまう。
 
 現実に戻ってきたはずなのに、なんだかまた非現実な生活が待っているようだ。


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