プルメリアと偽物花婿
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「同棲してるのに外食って憧れませんか? 外で落ち合ってデートです!」
午後七時。和泉の提案に乗って私はとある駅に到着した。
和泉の本日最後の営業先の近くに美味しい焼き鳥屋さんがあるらしく、その駅で落ち合うことにしていたのだ。
いつもは降りない駅で待ち合わせ。それは確かにワクワクする。
割と小さめの駅だからと改札付近で待ち合わせをしていた。とはいえ帰宅時間なので人混みは多い。
「和泉、どこかな」
改札を出て見渡してみると大きな柱の向こうにすらりと背が高く柔らかい髪の毛の持ち主――和泉の姿が見える。
近寄ろうとして、足が止まる。
和泉の隣には女性がいたから。オフィスカジュアルに身を包んだ可愛らしい雰囲気の人だ。
ドクン。厳重に鍵をかけていた過去の記憶が開いた。梅雨のじっとりとした空気が背中に張り付く。
あの日と同じだ。待ち合わせ場所に、彼以外に女性がいて、それから――。
急速に息苦しくなり、「違う、和泉はあの人じゃない」と自分に言い聞かせる。
そもそも道を聞かれているだけかもしれないし、ナンパかもしれないし。
だけど可愛い女性の言葉が聞こえてしまう。
「私、プロポーズされたの。だけど、和泉くんが忘れられなくて……ダメかな」
彼女の言葉に目の前が真っ白になりそうになった時、
「あ、先輩。ここですよ!」
和泉の明るい声が聞こえた。
はっと現実に立ち返ると、和泉と――それから女性がこちらを見ている。
立ちすくんだままでいると、
「田中さん、すみません。予定があるので。じゃあ、行きましょうか」
和泉はすぐに私のもとにやってきて、女性に軽く会釈すると私の手を取り、人混みをかわしながら駅を抜けていく。
「和泉くん、また連絡するね……!」と後ろから声が聞こえた。
「同棲してるのに外食って憧れませんか? 外で落ち合ってデートです!」
午後七時。和泉の提案に乗って私はとある駅に到着した。
和泉の本日最後の営業先の近くに美味しい焼き鳥屋さんがあるらしく、その駅で落ち合うことにしていたのだ。
いつもは降りない駅で待ち合わせ。それは確かにワクワクする。
割と小さめの駅だからと改札付近で待ち合わせをしていた。とはいえ帰宅時間なので人混みは多い。
「和泉、どこかな」
改札を出て見渡してみると大きな柱の向こうにすらりと背が高く柔らかい髪の毛の持ち主――和泉の姿が見える。
近寄ろうとして、足が止まる。
和泉の隣には女性がいたから。オフィスカジュアルに身を包んだ可愛らしい雰囲気の人だ。
ドクン。厳重に鍵をかけていた過去の記憶が開いた。梅雨のじっとりとした空気が背中に張り付く。
あの日と同じだ。待ち合わせ場所に、彼以外に女性がいて、それから――。
急速に息苦しくなり、「違う、和泉はあの人じゃない」と自分に言い聞かせる。
そもそも道を聞かれているだけかもしれないし、ナンパかもしれないし。
だけど可愛い女性の言葉が聞こえてしまう。
「私、プロポーズされたの。だけど、和泉くんが忘れられなくて……ダメかな」
彼女の言葉に目の前が真っ白になりそうになった時、
「あ、先輩。ここですよ!」
和泉の明るい声が聞こえた。
はっと現実に立ち返ると、和泉と――それから女性がこちらを見ている。
立ちすくんだままでいると、
「田中さん、すみません。予定があるので。じゃあ、行きましょうか」
和泉はすぐに私のもとにやってきて、女性に軽く会釈すると私の手を取り、人混みをかわしながら駅を抜けていく。
「和泉くん、また連絡するね……!」と後ろから声が聞こえた。