愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜

この気持ちは…

ほんの少しの胸の中の不安を除けば、有紗の秘書生活は順調な滑り出しを見せた。
 
千賀は、龍之介が言った通り、優秀なだけでなく教え方の上手ないい上司で、ハードではあるものの引き継ぎはスムーズだった。
 
なにより秘書という仕事を有紗はすぐに好きになった。
 
海外事業部の仕事とはやることはまったく違うけれど、誰かを支えるという意味で仕事の本質は変わらない。
 
龍之介のスケジュールは想像していた以上に過密で戸惑うことも多かったが徐々に慣れ、一カ月後には、有紗ひとりで龍之介の秘書業務を担えるようになった。
 
そしてさらに二カ月が経った。
 
午前十一時を回った秘書室にて、廊下へ続く扉が開き、自席でパソコンに向かっていた有紗は顔を上げる。
 
姿を見せたのは龍之介だった。

「真山、今から出る。急で悪いが同行を頼む」
 
彼はすでにジャケットを着ていて、このまま出られる格好だ。
 
有紗もすぐに立ち上がり、ジャケットを羽織りタブレットが入った鞄を肩にかける。

「三時からの新規プロジェクトの会議にまでには戻る」

「行き先は?」

「大使館だ。エストニア大使から非公式なランチに誘われた」
 
端的なやり取りで、有紗は彼の意図を理解する。
 
非公式なランチの誘いとは、あくまでも私的な会だ。

だがエストニアは、兼ねてから彼が事業を展開したいと考えている相手国、ただの遊びではない。
 
多忙な大使が時間を取ると言うのなら、たとえ急な誘いでも行くべきだと彼は判断したのだろう。

「エントランスに車を回していただきます」

「ああ頼む」
 
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