愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜
彼は有紗のよく知る彼のままだ。生まれながらのカリスマで、社員を思い会社を率いる。有紗が愛した彼だった。

「しばらくは花田社長に続投いただきます。あくまでも傘下に入るだけですから、就業規則も雇用条件もそのままで」
 
それについては、花田が言っていたが、親会社の役員の口から聞けて改めて安堵する。有紗もホッと息を吐いた。
 
双子を抱えながら働くのは容易ではない。今の環境が守られるというのはよかった。
 
でもそこで。

「ですが、この中でおひとりだけ親会社に転属していただきたい方がいる。今日私がここへ来たのはそれを本人に告げるためです」
 
龍之介の言葉に、その場がしーんと静まりかえる。

花田にとっても意外な話だったようだ。驚いて彼を見ていた。
 
その花田に、龍之介が説明をする。

「本社へ転属しても、雇用条件は今と同じ条件かそれ以上の待遇になります。あくまでも本人の意思を尊重しますが、スカウトしてもよろしいでしょうか?」

「え、ええ……。本人がいいと言うなら。本社への転属なら断る者はいないと思いますが……」
 
戸惑いながら、花田は答える。
 
龍之介がにっこりと笑った。

「ありがとうございます。ではさっそく」
 
そう言って彼はコツコツと靴音を鳴らして歩き出す。音だけでこちらに近づいているのがわかった。
 
意外な彼の行動に、皆が固唾を飲んで見守る中、有紗のすぐそばまで来て彼は足を止める。
 
もはや逃げも隠れもできない状況に、有紗はゆっくりと顔を上げる。
 
龍之介がまっすぐにこちらを見て口を開いた。

「真山さん、君は本社へ戻ってくれないか」
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