魅惑の絶対君主

ぎゅっと抱きつかれた勢いでよろめいた。

ちょっと苦しいけど、甘い香水にくすぐられると徐々に気分が落ち着いてくる。



ああ……こういうの久しぶりだなあ。

お母さんの背中にそっと腕を回した。



あのね、お母さんが帰らない間ずっと不安だったんだよ。


あとどれくらい待てば帰ってきてくれるんだろうとか、
もし一生帰ってきてくれなかったらどうしようとか毎日考えて。


取り立て屋さん、前までは二人だったのに今日は三人に増えてて、すごく怖かったんだよ。


お母さんとの生活費を貯めるために必死でバイトしたのに、一ヶ月分のお給料を一瞬で全部持っていかれて悲しかったし、

脅されるままにお金を差し出すしかない自分があまりに無力で悔しかった。



──喉元まで出かかった言葉を仕舞い込んで。


仕舞い込んだものが二度と出てこないように



「わたしがいるから大丈夫だよ」



今日も、固い固い鍵をかける。


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