好きを君に。
「……か……高坂」
「ん……」
「高坂! 高坂遥!」
鼓膜を破る勢いの大音量が私の耳元で響く。
夢の旅を楽しんでいたあたしは、突然現実に引き戻された。
何事!?
きんきん耳鳴りする耳を押さえて、あたりを見渡す。
あたしの目線は、一人の男の前で止まる。
そいつをあたしは思いっきり睨んだ。
「なに? うっさいな」
「さっきから呼んでるのに起きないお前が悪いんだよ」
「はあ? それにしてもね、起こし方ってのがあるでしょ!?」
まだ耳がキンキンして頭に響いている。
絶対に、間違いなく、もっとましな起こし方があったはずだ。
「そもそも授業中からぐーすか寝てんじゃねえ。受験生の自覚、あんのかてめえ」
「あるわよ! 昨日夜遅くまで起きてたから寝ちゃっただけでしょ!?」
「夜遅くまで起きてて、授業中寝たら意味ないだろ!」
「勉強もしてないあんたなんかにいわれたくないわ!」
「勝手に決めつけんじゃねぇ!」
「じゃあしてるの? 一体何時間したのよ、いってみなさい」
「……三十分」
目をそらしながら言いにくそうにいったヤツに、鼻で笑う。
「そんなの勉強してるうちにはいんないから」
「じゃあそういうお前は何時間したんだよ」
「二時間」
「たいしてやってないじゃねぇか!」
「あんたよりまし!」
ぎゃあぎゃあ言い合ってると、突然頭に衝撃が走る。
目の前に一瞬星が浮かんで、頭をおさえた。
「いったあ……」
「いってえ……」
ほぼ同時にいって、頭をたたいた相手を見る。
見れば、すごい冷めた顔の千香さんが。
「千香……」
「如月、てめえ……」
「あんたたちうるさい。掃除始まる時間になってるの。言い合ってるひまあるなら、掃除して」
ひどく冷静、かつドスが聞いた声でいわれて一瞬黙る。
でも納得できなくて、ヤツを指差す。
「でもこいつが……」
「お前のせいだろ」
「はあ?」
なおもケンカを売ってくるので睨みつけると、その雰囲気にいちはやく気付いた千香が、ぴくん。と眉を動かして。
「どっちもどっち! とっととする!」
静かだけどドスの聞いた声をあげた。
「「……はい」」
二人同時にはもって、肩を落とす。
あまりの怖さに、迫力負けして。
しぶしぶほうきをとりにいって、掃除を始めた。