好きを君に。


中学三年の受験シーズン。

もうすぐ三月でいよいよ公立の一般入試だ。
ほとんどの人が二月の私立入試で滑り止めをもっているけど、本番はやっぱり公立だからみんなピリピリしている。
私立や推薦でもう進路を決めている人をのぞけば、まだまだ受験モードだし、それはあたしも例外じゃない。

受験が近い、ということは、卒業も近い、ということだ。

今の目標はもちろん高校合格。
それ以外は考えちゃいけないって思ってる。

でも。
受験が近づくにつれ、受験モードには確かになっているけど。
私立入試が終わって合否がでたあたりから、ソワソワしている子が増えた気がする。

いつのまにか告白している子がいたり。
受験が終わったら告白するんだっていう子がいたり。
みんなが、知らず知らずのうちに恋に決着をつけようとしている。

あたしは、しないけど。
好きな人はいるけど、ね。

ほうきで床をはきながら、ちらとさっきまで言い合っていた相手をみる。


藤崎悠哉(ふじさきゆうや)

大きくはないけど丸い目に、丸みのある輪郭。
笑うとできる笑窪が特徴的で、身長が低いのもあって同年代より少し幼く感じる。
あたしよりは10センチくらい高いけど。


あいつと知り合ったのは、中学二年生。
席替えで、隣になったことがすべてのきっかけだった。
第一印象は最悪だった。
理由は隣になって、ヤツが放った一言だ。

「お前、チビだな」

まさかほぼ話したこともない相手にそんなことを言われると思わず、あたしは面食らってしまった。
その後に心に湧いてきたのは、当然怒りだ。

悪かったな!
どうせ150センチですけどなにか文句でも!?
あんたにどうこういわれる筋合いないんですけど!!

「……そういうあんたもチビだから」

心の中の文句をなにひとついわなかったあたしをだれか褒めてほしい。
代わりに嫌味ったらしく、にーっこりと笑顔を浮かべていってやった。

そんなあたしの言葉に、ヤツも明らかに顔をしかめて、ドンッと机をたたいた。

「俺はこれから伸びるんだよ!」

なにこいつ!
自分から喧嘩ふっかけてきたくせに、反論されたらムキになって!

「あたしだって伸び代あるもん」
「伸びたらいいな」
上から目線で嘲笑うかのようにいわれて、怒りは頂点に達した。
あんたなんか一生チビでいろ。っていって言い争い。

ほぼ話したことないのに。
さんざん二人で罵り合って、最終的には先生が止めた。
雰囲気はもちろんしばらく険悪だった。

それが、最初。


次の日からは、毎日のように言い合いして、席替えで隣じゃなくなっても続いている。

そして、今に至る。


よくいう犬猿の仲ってやつ?
そのせいか、告白なんて気恥ずかしくて出来るわけがない。
あたしとあいつの間に甘い恋人みたいな雰囲気が流れることすら想像もできない。
告白する姿を考えても自分がどんな顔をすればいいかわからなかったし、そんな勇気を自分がもてるとも思えなかった。

最後までケンカして、それで終わりでいいかなって思う。
気まずくなるのなんて嫌だし。


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