好きを君に。
「高坂」

門扉に手をかけたあたしを呼ぶ桐野を振り返る。
桐野がまたさっきの真剣な瞳であたしをみていた。

「覚えといて。俺はずっと高坂の隣にいれるし、もし付き合ってくれたら死ぬほど大事にするから」

目を見張るあたしに、桐野は次の瞬間にはにっこり笑顔を浮かべて、じゃあな!といって走っていった。
あたしは呆然と、その背中が見えなくなるまでみていた。


家の中に入ったあたしは、状況が理解出来ずにその場にへなへなと座り込んだ。

さっきの出来事が頭を駆け巡って、顔を覆う。

やばい。
整理できない。

桐野があたしを好き?
そんなこと全然気づかなかった。
そんな目で見たこともなかった。

”俺、高坂のことが好きなんだ”
まだあの時の熱が、耳のうちで響いている。
桐野の真剣な瞳が、目に焼き付いている。

”悠哉も、俺の気持ち知ってるよ。協力だってしてる”

そして同時に、藤崎が協力していることを思い出す。
それはつまり、藤崎はあたしのことを、そういう対象としてみていないということ。

告白してくれて嬉しい。けど、藤崎のことを考えるときゅうと胸が痛くなる。

千香がいったように、藤崎はあたしのこと恋愛対象にみてないんだ。

好きなのはあたしだけで。
そばにいたいと思うのもあたしだけで。
藤崎にとってあたしは、桐野と付き合ってもいいと思うような、そんな存在。

つきつけられた現実は千香にいわれたあのときだって心にぽっかり穴が空いたような気持ちだったのに、そのときよりも心をズタズタに引き裂く。

知らずに制服のポケットを握りしめてしまう。

ねえ、藤崎。
藤崎は、あたしのことどうも思ってないの?
昨日心配してお見舞いに来てくれたのだって、桐野についてきただけ?

もしかして、とかすかに期待していたあたしの希望を簡単に砕かれる。
あたしがただ勝手に舞い上がって、勝手に思いを募らせて。
あんたの行動に一喜一憂してバカみたいだね。

桐野に告白されても、あたしが思い出すのはあんたのことばかりで。

何度も思い知らされる。

あたしは、藤崎が好きなんだって。
どうしようもなく、大好きなんだって。

明日、あたしはどんな顔して会ったらいいんだろう。
ちゃんと話せる自信、ない…。

あたしの思考がまとまることはなく、ぐちゃぐちゃだった。

受験が終わったその日。
あたしを待ち受けていたのは、人生で初めての告白と失恋だった。
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