ブラッドドールとヴァンパイア
 この世界には、吸血鬼(ヴァンパイア)が存在する。
 吸血鬼(ヴァンパイア)は強い力を持った特別な生き物だ。
 だが、吸血鬼(ヴァンパイア)にも弱点がある。それは、三日に一回は人の血を飲まなければ死んでしまうことだ。
 そんな吸血鬼(ヴァンパイア)のために存在しているのが吸血用人形(ブラッドドール)である。

(だが、まさかこのような幼い少女が吸血用人形(ブラッドドール)だなんて……)

 吸血用人形(ブラッドドール)吸血鬼(ヴァンパイア)用の血の何百倍もの値がつくモノだ。圭のはレンタルにしろ、それなりに値は張った。
 だが、ここまで歳若い娘……少女と言うにも幼すぎる吸血用人形(ブラッドドール)が来るとは思ってもいなかったのだ。

 少女は圭をしばし見つめた後、ゆっくりと立ち上がり、丁寧に挨拶をした。

「はじめまして、ごしゅじんさま」

 声は想像していたよりもずっと、見た目よりもずっと幼く、か弱く、鈴のようだった。

「つよく、けだかいゔぁんぱいあのごしゅじんさま。このたびはぶらっどどーるをごりよういただき、まことにありがとうございます」

 話している言葉は大人が使う言葉だが、話し方は拙い。

「ごしゅじんさまのため、ぶらっどどーるとしてちをけんじょうさせていただきたくぞんじます」

 吸血用人形(ブラッドドール)としての教育が、知識が、こんなにも小さな身体に刻まれているのだと圭は知った。

「これからどうぞ、よろしくおねがいいたします」

 そう言って、少女は恭しくお辞儀したのだった。

(なんだ、この生き物は……)

 この少女は圭が想像していたよりもずっと、不思議なモノだった。

 まず、幼すぎる。
 これほどの年齢の吸血用人形(ブラッドドール)が存在するだなんて、圭は聞いたことがなかった。
 第二に家族が何年もかけて身につけていく所作や口調が、この少女にはある。
 一体、どれほどの訓練を受けたのかと疑うほどだ。

(……何か、話さなくては)

 きっと、この少女は何も知らない。
 無垢で、清廉すぎるのだ。

「私は御影圭。君の……ご主人様だ」
「みその、けいさま……」

 覚えられるように、慈しむように、少女は主人の名を復唱する。

「わたしの、ごしゅじんさま……」
「……ああ、そうだ」
「わたしの、ごしゅじんさま。つよくて、けだかいゔぁんぱいあのごしゅじんさま……」
「……強くて気高い、だなんて言うな」
「なぜですか?」
「…………」

 圭は答えない。少女は圭の回答を静かに待つ。

 沈黙の時間が潮時を迎えた時ーー

「あるじ様」
(……この声は…………)

 凛とした声が、二人の耳に入った。


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