ブラッドドールとヴァンパイア

一章

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 車が早朝の帝都を駆ける。
 暁が空を統べる今日。
 少女は暗闇の中、一人(ふけ)っていた。

(きれい……)

 ここがどこかもわからないが、少女が断言できるのはただ一つ。

(わたしはまた、だれかにひつようとされるのね)

 何かの隙間から差し込む光が、高い夜の星空に見えた。
 ガタガタと揺られ、視界が安定しない。
 脳の処理能力が低いからか、動かぬはずの光が流れ星のように思えた。

(このくりかえしは、いつまでつづくのかしら)

 少女は、気づけば監禁され、気づけば暗闇に、気づけば見知らぬ誰かの家に……そればかりを何度も繰り返していた。

 この日もまた、手足を拘束され寝ていたはずが、何かの箱に詰められているようだった。

 あるところで揺れが収まった。

(もくてきちについたのかしら)

 何処へ行こうとも、少女がすることは決まっている。
 それを少女自身もわかっていた。

 今回ので、もう、六回目だからだ。

 また、揺れが始まる。
 少女の目的地で待つ、目的の者のところへと運ばれるのだ。

(ごしゅじんさまにあったら、はじめましてっていうのよね。それから、わたしのことをつたえて、それから……)

 少女は頭の中で何度も確認する。

 するとーー

「御影(けい)様でしょうか?」
「ああ。配達か。ありがとな」
「仕事ですから。では、私はこれで」
(みかげ、けい……。それがわたしのあたらしいごしゅじんさま?)

 少女が青年ーー圭に手渡される。

(ごしゅじんさま、どんなひとかな)

 少女は圭を見ようと光の差し込んでいる方に目を近づけるが、揺れることもあり、上手く見えなかった。



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(さてと……)

 圭は大きな段ボールを抱え、自室に向かっていた。
 中に入っているのは、昨日の夜に頼んだモノだ。

(本当は、こんなモノを使いたくはないのだが……)

 だが、コレを使わなければ、やがて圭は死んでしまう。
 誰だって、自分の命が天秤にかかれば、自分の命を取るものだろう。
 圭はそう考えていた。

 ビリビリ……と紙を破る音が部屋に響く。

(どんなモノが入っているのやら)

 圭は、軽い気持ちで箱を開けた。

「! お前が……」

 大きな箱には、小さな少女がすっぽり入っていた。

 黒髪、黒目の小さな少女だった。
 何処か儚げで、だが歳相応の幼さで溢れている。
 だが残念なことに、顔はとても美しいのだが、服はボロ雑巾のように汚れていた。

 少女は起き上がると、圭を見つめた。

(こんな少女を、俺は買ったのか……?)

 嫌悪と気持ち悪さで吐き気がした。
 今まで圭は、裏で取引している輩を好ましく思っていなかった……むしろ、軽蔑していた。
 しかし、今は圭もその界隈に手を染めた一人だ。

 こんな少女を、圭は自分が買っただなんて思いたくなかった。

 後悔しても、もう遅い。
 どのみち買うことになっていたのだろうから。

「っ……。君が吸血用人形(ブラッドドール)か」


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