もう誰にも恋なんてしないと誓った
「カーライル嬢って、アイリスがいつも一緒に居る子だろ。
 婚約者が居ないとは思わなかったなぁ。
 彼女は俺みたいな次男三男からしたら、是非紹介していただきたい人気のご令嬢だし、見た目も悪くない」

「……そうなんだ。
 シンシアがキャムのタイプだなんて思いもしなかったわ。
 だったら、紹介してあげるわたしに感謝してよ!」


 シンシアが人気?
 見た目も悪くない?
 これと言って、特に……
 あの子のどこが良いかと言うのなら、伯爵家の後継者ってことだけでしょ!


 自分にもよくわからないけれど、イライラして語尾がきつくなってしまって、キャメロンが驚いたみたいにわたしを見た。


「別にタイプじゃないけど……
 ハミルトン領は問題無しの優良物件だと聞くし。
 何より領地なしの子爵位貰って勤めに出るよりは、伯爵家の婿入りの方がいいよな、くらいの感じだよ?」


 卒業までに婿入り先が決まらなければ、武官を目指しているわけでもないキャメロンは、来年の文官試験に合格しなければならない。

 その上で侯爵家が持っている子爵位を継ぐことになっていると、わたしはセーラ様から聞いていた。

 
 彼の言う『領地なしの子爵位』はその事で、わたしの家のマーフィーのことではないのだけれど、それを口に出されると腹が立って悲しくなって。
 わたしは珍しく彼の前で泣いてしまい、キャメロンを慌てさせてしまった。



 キャメロンは、わたしの父のような人生は歩みたくないのだ。
 わたしが泣いてしまった理由にキャメロンは、気付かない。
 でもそれを彼に説明するのは、みじめで出来なかった。



「……どうした、アイリス?
 泣くなよ……いつも笑ってるお前が泣いたら、どうしたらいいか、わからないだろ?」


 途方にくれたようなキャメロンの胸に頬を寄せたら、彼は頭を撫でてくれた。

 キャメロンとはいつも楽しく遊んだり、おしゃべりするだけだった。
 こんな風に甘えたことなんてなかったのに。



 初めてキャメロンの前で泣き顔を見せてしまったけれど、わたしの髪を撫でる彼の優しい手が……
 
 何だか心地よかった。 

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