もう誰にも恋なんてしないと誓った
 もうすぐ昼休みも終わる。
 美化委員達も戻っているだろう。


 アイリスからは何も聞き出せなかったのは残念だけれど。
 キャメロンのお父様である侯爵閣下が動かれる前に。
 今日中にこちらから、この縁組はなかったことにすると申し入れるつもりだ。
 


「もう話しかけないでください。
 わたしからも貴女方に、個人的に話しかけることはございません」


 これ以上は時間の無駄だと思ったので、アイリスを残して準備室を出れば、やはりキャメロンが待っていた。
 彼が待っていたのはわたしじゃない。
 アイリスが心配で残っていたのだ。


 キャメロンと視線を合わせないようにしたので、どんな表情をしていたのかは知らない。
 無言で傍らを通り過ぎた。
 彼がわたしの名前を呼んだけれど、それを無視する。
 


 各クラスの美化委員が集まっている教室へ戻り、委員長に「休み時間には特別教室の準備室は施錠した方がいい」と提案しておいた。


 そしてそのまま職員室へ行き、気分が悪いので早退したいと担任に告げた。
 わたしの顔色を心配した担任が直ぐに帰りの馬車の手配をして、邸まで早退の電話連絡をしてくださった。
 クラスに置いたままの鞄や教科書は、学院の小間使が取りに行ってくれた。


 
 用意して貰った学院の馬車に揺られながら、わたしは帰路についた。
 今朝登校する時には、帰りがこんなことになるとは思いもしなかった。
 これから母に婚約が無くなった事情を説明して、領地の父に連絡して……


 あれこれ段取りを考えるのに疲れてしまって、それからは自宅までぼんやりと車窓から流れる景色を見ていた。



 邸に帰ると、王都邸執事のレイドが馬車寄せに立っていて、馬車から降りるわたしに手を差し出した。

 仕事柄、何があろうとも無表情を心がけている彼が少し眉をひそめて、わたしの様子を観察するように見つめている。


 体調を崩して学校を早退するなど初めてのことなので、レイドに心配をかけてしまったようだ。

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