もう誰にも恋なんてしないと誓った
 昼休みだからか、通る人も居ない特別教室棟。
 彼が入った教室に少し遅れて、わたしも入る。
 美術室、彼の姿はなく……その奥の準備室。

 
 驚かせたいから、わたしは足音を忍ばせて。
 準備室はカーテンが閉められていて、それなのに照明は点けられず昼間なのに仄かに薄暗い。
 沢山のイーゼルやスケッチ用の石膏像や様々な、美術の授業に関係したもの。
 それらに囲まれて、決して授業に関係しないものが2体。


 それは……抱き合って名前を呼び合っていて。
 わたしの耳にも、はっきりとそれが聞き取れた。
 

 
 近々正式に婚約して大々的に披露する予定だった、わたしの恋人と。
 幼馴染みの彼を紹介してくれた、わたしの親友。



 付いていかなければ良かった?
 いいえ、付いていって良かった!
 わたしは何も気付いていなかったのだから。



 何度確認しても、お互いに単なる幼馴染みだと言い張っていたふたりは抱き合い、友愛の域を越えた熱い口づけを交わしていた。


 何度も顔の向きを変えて繰り返す。
 互いの唇が離れると、はっはっと短く息継ぎをして。
 そしてまた、口づける。
 段々と熱に浮かされたように。
 まるで目の前の相手を飲み込もうとするように。


 彼はわたしには、礼儀正しい……
 優しく触れるようなキスをしていたけれど。



 知らなかったな、貴方の本気のキスはそんな感じなのね。


 無意識に指先が……自分の唇に触れていた。
 わたしもまた、その熱情に引きずられたみたい。
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。



 わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
 

 今日まで身近だったふたりは。


 今日から一番遠いふたりになった。


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