もう誰にも恋なんてしないと誓った
「……シンシアと夜に出掛けるのは無理じゃないの。
 あの子のお母様が許さないでしょう?」

「マチネだし、大丈夫だと思う」


 マチネ……新作初日の!一番最初の舞台!
 そんな記念すべき舞台を観劇出来たのに!
 シンシアに譲らないといけないなんて!
 そんなの、理不尽じゃない!

 

「兄上がハミルトンとの縁組を進めたがっていてさ。
 シンシアを紹介してくれたアイリスにも御礼をしたいと言っていたから、次にチケットが手に入ったら、お前に2枚渡すように頼んでおくよ」



 つまり、今回はシンシアとふたりで行くと決定なのね。
 そんな、いつ手に入るかもわからない次を待て。
 2枚やるから、お前が誰と行こうがお好きに、ってことね。


 
 もうキャメロンやお兄様が優先するのはわたしじゃない。
 わたしが紹介してあげて、まだ3ヶ月足らずの。
 そんなシンシアをわたしより優先すると言うの?



 仕方がないことなのに、気持ちを収められない。
 イライラしてきたから、早めにお暇を告げて立ち上がった。


 わたしを女性扱いしないキャメロンが見送らないのはいつものことなのに、それさえもひどいと思ってしまう。
 ひとり玄関に向かうと、帰宅されたオースティンお兄様と会った。


 今までは、会えたら嬉しくてドキドキしていた。
 だけどさっきまでのキャメロンとの会話から、お兄様がシンシアとの交際を喜んでいて、貴重なチケットを渡す位、後押ししていると聞いて、わたしは……



「久し振りだね、マーフィー嬢」


 いつからか、お兄様はアイリスと名前で呼んでくれなくなった。
 それを寂しく思うけれど、わたしもお兄様と呼び掛けない方がいいのだろうと黙って会釈するだけにした。


「君には良いご縁をキャメロンに紹介して貰ったと感謝している。
 ……それで、キャメロンから話は聞いたかな?」

「観劇の件ですか」

「やはり、あいつは君には言えないのか。
 キャメロンに注意したんだよ、ちゃんと君の事を考えてやれ、己の立場を自覚しろ、と」


 わたしの事を考えてやれ?
 気遣うような言葉だけれど、わたしに向けるお兄様の表情も口調も冷たいのは何故?


 嫌な予感がした。
 
 
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