もう誰にも恋なんてしないと誓った
 どうしてこんな風に言われなくっちゃいけないの?
 貴方も昔はわたしを可愛がってくれたじゃない。
 侯爵閣下も同意見だなんて、信じない!


 わたしとキャメロンとは、疑われるような関係じゃないのは知っているでしょう?
 シンシアを紹介してあげたのはわたしじゃないの。
 お兄様も感謝していると言ったくせに!
 


「ここまで言われても納得出来ないか?
 自覚しろと言うのは、君にも言えることだ。
 私は君の兄ではないよ、マーフィー嬢」


 少し苛立つように言って、お兄様は行ってしまった。
 後ろに控えていたお兄様の専属従者もわたし達の会話を聞いていただろうに、無表情に会釈して通り過ぎていく。
 侯爵家に自由に出入りしていたわたしは、男爵家出身の彼とも顔見知りだったのに。




 いつも優しかったオースティンお兄様から一方的に、捨て台詞のように言われた言葉が刃の様に心を突き刺して。

 わたしはその場に立ち竦むだけだった。



     ◇◇◇



 翌日登校すると、シンシアが嬉しそうにしていた。
 キャメロンから電話が来て、観劇に誘われたと嬉しそうに。


「ふたりだけで観劇なんて……お母様はお許しになったの?」

「わたしを誘う前に、先に母に話して許可を取ってくれたの。
 シェルフィールド劇場で観られるなんて、卒業してからだと思っていたの」

「シンシアが演劇を観るひとだとは知らなかったわ。
 ……わたしはレディパトリシアの大ファンなの」


 大ファンだと言えば、特に興味がなければ、わたしに貴重なチケットを譲ると言い出すかもと思ったのに。
 それくらい融通してくれてもいいじゃない。
 キャメロンを紹介してあげたのは、わたしよ……


「わたしもお芝居は大好き。
 ハミルトンにも年に何回か回ってくるから、それを楽しみにしていたの」


 何を嬉しそうにしているのよ。
 田舎を回る二流以下の旅芸人の芝居と、王都で最先端のシェルフィールドの舞台を一緒にしないで!
 そう大声をあげそうな自分を抑えて微笑んだ。


「……わたしの分も楽しんできてね」

「ありがとう!貴女に何かお土産がないか探すわね。
 わたしにはパンフレット位しか思い付かないけれど。
 キャメロンなら、アイリスの好みもよくわかっているものね?」


 鈍感な女が、笑いながら。

 お兄様から刺されたわたしの心の傷を、ぐいぐい押してくる。


 
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