もう誰にも恋なんてしないと誓った
 覚えてる、今でも覚えてる。

 観劇チケットが2枚だけだから、アイリスとスザナ抜きで、初めてふたりだけで出掛けた。
 プロポーズの後、承諾したら抱き締められて初めてのキスをした……

 あの日は、このわたしでも幸せになってもいいのだと思えた、特別な1日だった。



「お互いのご両親の顔合わせはいつ、どちらで?」

「5月18日です。
 グローバー様から早くご挨拶したいと申し入れを受けましたが、父の領地での仕事のキリが着くまで待っていてくださったので。
 場所は侯爵家の皆様にはご足労をお掛けしたのですが、婿入りしていただく予定でしたので、こちらの王都邸でおもてなしを致しました」


 キャメロンはどうしたかったのだろう?
 本命のアイリスとそんな関係になっていたのなら、わたしとの話を進めずに、直ぐに撤回すれば良かったのに。
 家族ぐるみで仲がいいのだから、後継者ではないキャメロンとアイリスの結婚に反対は出なかったでしょうに。
 



「その……誠に申し上げにくいのですが。
 婚約や顔合わせについて、キャメロン卿は乗り気に見えましたか?」 

「お気遣いは結構です。
 今では自信がありませんが、あの頃はそう見えました」


 これは嘘じゃない。
 本当にキャメロンは乗り気に見えていたし、アイリスには祝福して貰った。
 認めるのは悔しいが、あのふたりに完全に騙されていた。




「両家でおふたりの婚約式、及び結婚式について、口頭でもいいので、何か取り決めをされましたか?」

「婚約発表は来月のわたくしの領地での誕生パーティーで行い、婚約式は秋の収穫が終わった後に、王都のセントモア大聖堂で執り行うことに」
 
「大聖堂で、ですか?
 いくらサザーランド侯爵家とは言えども、後継者でもないキャメロン卿に?」


 
 婚約式の式場について、先生は初耳だったようで驚かれてしまった。
 ハミルトンの顧問として立ち会っていただくだろうに、父がまだ話していなかったとは思わなかった。

 当然ご存知だろうと口に出してしまった言葉は無かったことに出来ない。
 


「大聖堂はこちらの……わたくしの父の事情がありまして」

「ハミルトン伯爵のご事情で?
 セントモア?
 証人はどなたのご予定でしたか?」

「……あの、次の質問をお願い致します」


 言外に答えたくないと滲ませる。

 

 父は顧問弁護士だからと、何もかもをグレイソン先生に明かしているわけではなかったのね。
 一体いつ話すつもりだったの。

 だったら、わたしから話すわけにはいかない。


 予定通りに婚約式が執り行われていたら、当日先生はどれ程驚かれただろう。

 
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