もう誰にも恋なんてしないと誓った

16 事情を聞かれる◆シンシア

 母からの連絡を受けて、明後日父が急遽こちらへやって来ることになった。

 その電話を終えて直ぐに、父は領地から顧問弁護士のグレイソン先生に電話を掛けたようで、伯爵が王都にお出でになる前に資料を揃えたいと、一足先にわたしは事情を聞かれることになった。


 グレイソン先生からはわたしの精神的苦痛を配慮して母の同席を勧められたけれど、お断りした。
 わたしよりも母の方が、昨日から顔色も悪く参っているように見えたからだった。

 キャメロンとの交際について、母には全く責任はないのに「あんな男の本性を見抜けなかった愚かな母親」と我が身を呪い始めていた。



     ◇◇◇



 応接室のソファでわたしの正面に座るのは、グレイソン先生。
 その隣では、これから話す内容を書き留めるのか、恐らく助手をされている男性が、抱えていた重そうな鞄からノートとペンを取り出した。


 スザナがわたし達3人の前にお茶をだし退出したので、早速事情聴取が始まった。



「婿入り候補を紹介する、と言ってきたのは、アイリス・マーフィー嬢からなんですね?
 お嬢様が誰かを紹介して欲しいとお願いしたのではなく?
 それはいつ頃のことでしたか?」

「冬休暇が終わって、学院の後期が始まった頃でした。
 わたくしの結婚について話していた時に、マーフィー嬢からグローバー様をお薦めすると。
 わたくしは最初は侯爵家の方は恐れ多いとお断り致しました」


 なるほど、ことの起こりから話していくのね。
 ……そう、わたしは最初はアイリスに紹介は結構だとお断りした。
 だけど話を聞いたキャメロンの方から会いたいと言ってきてくれて……
 正直嬉しかったと隠さずに話した。


 その2週間後に都内のカフェで、紹介者のアイリスと侍女のスザナと4人で会ったこと。
 2月からはほぼ毎週末、やはり4人で会っていたことも付け加えた。




「キャメロン・グローバー卿から婚約を申し込まれたのはいつのことで、また場所もお話願えましたら」 

「4月6日です。
 シェルフィールド劇場の新作初日のマチネ公演にお誘いいただきました。
 侯爵家でお茶をいただいた後、わたくしの自宅まで送ってくださった馬車の中で、でした。
 お茶席にはお兄様のオースティン・グローバー様も途中から同席されていて、帰宅された侯爵夫人にもご挨拶をして帰りました。
 お留守だった侯爵閣下以外のご家族にご紹介いただいた上でのお申し込みでしたので、わたくしのことを真剣に考えてくださったのだと嬉しく思ったのを覚えています」

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