もう誰にも恋なんてしないと誓った

24 あのふたりに贈り物を◆シンシア

 関係者以外には知られていない婚約前の破談で、請求出来る慰謝料は……


 高額だとオースティン様から「婚約はまだしていない」と反発を受ける。
 かと言って低額だと「そんなものしか払えないのかと見くびるな」とこれもまた侯爵閣下からお怒りを招く恐れもある。

 出来れば、折り合いが付くまで何度も話し合い等せずに、穏便に収められる金額が良い。


 わたしにキャメロン本人が漏らした彼が持つ個人資産の約半額。
 閣下とオースティン様が、それなら妥当だと判断されるであろう額。
 その金額が丁度、この1/2の額に近かったのだ。
 自分の資産が半分失われるのを知ったキャメロンは辛いだろう。


 わたしは慰謝料で自分の資産を増やしたいわけじゃない。
 ここまでとこれからかかるであろう費用を補填して欲しいだけ。


 それとふたりは同罪なので、同じ額をアイリスにも。
 最近の流行りは男女平等で、わたしはそれを支持するとアイリスはよく口にしていた。
 同等の権利には、同等の義務が発生するのだから。



 アイリスには事情を話せる時間も与えた。 
 だけど彼女は黙秘した。
 それはわたしに委ねた、どう思われても反論は致しません、ということだと受け取らせて貰った。


 マーフィー子爵家にも請求する旨を、サザーランド宛の内容証明書に付け加えて欲しい。
 わざわざマーフィー子爵家には、作成しない。
 1通の書類作成にだって手数料はかかる。
 届けるのも労力だし、侯爵家とは違って支払いをごねられる可能性も高い。

 それならば、身内なのだから侯爵家から伝えていただいて。
 あの家のあの娘にも責任はある、と圧力を掛けていただけたら。



「その金額を無事に支払えて貰えたら、全てを賄えないとは思いますが、婚約披露準備や今回かかった費用に当ててください」

「馬鹿なことを言うな。
 お前の慰謝料じゃないか」


 父が少し機嫌を損ねたみたいなので、説明をする。

 グレイソン先生やクーパー先生のような周囲の方達が。
 領地本邸や王都邸で働いてくれている皆が。
 何より両親が、わたしを守ろうとしてくれて。
 普通では考えられない早さで動いてくださっている。
 だけど、その好意にお金がかかるのも事実。


「慰謝料等、パッと使ってしまいたいのです」


 わたしのあっけらかんとした物言いに、父はそれ以上は言わなかった。
 そして、他には付け加えるものはないかと尋ねられたので。


「話し合いは侯爵家へ伺うのではなく、ハミルトン邸でとお願いしてください」

「お、敵陣に斬り込むのではなく、自陣に誘い込むか」

 父の言い方が可笑しくて、笑ってしまった。

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