もう誰にも恋なんてしないと誓った
 徹底的に調べる、と父は命じた。

 邸内厨房の出入りや最近の領外からの人流物流の記録の洗い出し、領内各地の主な井戸に毒を入れられていないかを人海戦術で調べていた。


 父の判断で、母とわたしはここに居ては危険だと当時の王都邸に移ったが、決定的な事がそこでも起こった。
 母との外出から邸に戻ったわたしが被っていた帽子のリボンに、朝には無かった初めて見る小さな花飾りがピンで止められていた。



 それでわかった。
 母とわたしが王都へ移ってからは、領地では新たに何も起こっていない。
 目的はハミルトンではなく、わたしだと。


 いつでも、何処でも、護衛が付いていても。
 それをすり抜けて、容易にわたしに手が届くのだ。
 これは警告だった。




 一度だけ会った帝国の皇女に気に入られてしまった、わたしの幼馴染み。
 皇帝陛下に溺愛されている皇女が望んだ縁組を、国王陛下は一度は辞退した。



「僕が国や国民を想う気持ち、シンディが領地や領民を想う気持ちは、どちらも同じ大きさで同じ重さだから、ふたりで分け合おう」



 丘の上で城下を見渡しながら、そう言ってくれたのは彼が15歳、わたしが12歳。
 継承権を放棄して、ハミルトンの婿に入ると約束してくれたエディ。
 婚約はまだだったけれど、国王陛下も王弟殿下もわたし達の未来を認めてくれていた。


 国力の差があって、断りではなく辞退の体を取った。
 それでも、皇女は諦めてくれなかった。
 わたしの事等調べれば、直ぐに分かる。
 小国伯爵家の小娘が、帝国皇女のプライドを傷付けた。




 恐怖でわたしは外に出られなくなり、心配したエディがお見舞いに来てくれる。
 すると翌日、庭に子犬や子猫の死骸が投げ入れられている。


 正式な婚約者でもないわたしを王城で囲うことは、反対が出た。
 帝国との縁組で、2国間の関係を強化したい派閥が存在していた。

 いくら出入りの管理を徹底しても、多くの人間が働く王城は、各々が繋がる先まで把握しきれず、却って危険に思えた。 
 

 邸には居られない。
 我慢できないと、泣いても叫んでも。
 何処へ逃げても付いてくるなら、このまま王都邸に留まった方が警備しやすいと彼に宥められた。


 ところが監視を強化しても、一瞬の隙をつかれる。
 こんなところでも、国力の差は一目瞭然だった。
 こんなところだからこそ、余計に思い知らされる。
 証拠はなく、目撃者も居ない。 


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