もう誰にも恋なんてしないと誓った

5 彼はお薦め◆アイリス

 ハミルトン伯爵家の一人娘のシンシア・カーライルは、婿を取らなくてはならないらしい。
 
 ハミルトン伯領は王都から離れていても、それなりに栄えているようだ。
 行ったこともない地方だから、シンシアから『それなり』と聞かされてもピンと来ない。



 近頃では貴族でも幼い頃から婚約を結ぶのは減ってきているけれど。
 女でも爵位を継ぐのなら学院の入学前には、彼女に相応な婚約者が居てもおかしくないのに、と不思議に思った。


「両親が知り合ったのが、貴族学院だったの。
 だからだと思うけれど、学院には色んな男性が居るのだから自分の目で相手を選びなさい、と言われていたの」

「ふーん、ご両親は恋愛主義なのね」

「……どうかな、両親は純粋な恋愛結婚ではないと思うのよ。
 性格や家格や派閥……諸々をお互いに吟味して納得して、結婚に至ったと聞いているから」

「お互いに吟味して、ってそんな結婚が政略とどこが違うの?
 単に学院で知り合ったと言うだけで、結局はあれこれ条件付けて、親とか家の関係で決めるのでしょう?
 それはやっぱり、恋愛結婚とは言えないわね」

「……アイリスの言う通りかもしれない。
 でも、わたしには後継者としての責任もあるから、自分の気持ちだけで好きに選びたいとは思っていないの。
 何て言えばいいのかな……
 母も言っていたけれど、結婚相手を自力で探すのは難しいわ。
 だけど焦ったりしていない。
 とにかく、今まで婚約者を決めないで居てくれて、両親には感謝しているの」


 シンシアは大人しそうに見えて、実は負けず嫌い。
 そんな相手の条件やら見て決めるなんて政略と同じじゃない。
 ご両親にうまいこと言われて自分で探したって、最終的には言うことを聞くに決まってる。
 それって洗脳されてるって、自分では認めたくないみたい。
 

 焦っていないなんて、本当に?
 家には合わないとか、反対されたら諦めるんでしょ?
 在学中に見つけられなかったらどうするの?
 

 
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