幼なじみは狐の子。



 キンコーンとチャイムが鳴ってホームルームが終わる。


「恋、うちへ寄ってかない?」


 鞄を背負った理央が机にやって来て恋に尋ねた。

 恋は時間割を描き終えて今しがたメモ帳をしまった所だった。



「何で?何か用事?」

「この間恋に借りてた図鑑、返そうと思って。学校に持ってくれば良かったんだけど。」

「いつでも良いよ」

「助かる。暇なら遊びに来てよ。私やることないし。」



 斜め後ろの席で宗介が、鞄を持って立ち上がった。



「恋、帰るよ。」

「ちょっと待って。」

「駒井んち寄るなら寄るで良いけど、お前まだこの前の国語の作文書き終えてないだろ。ちゃんと終わらせなよ。」

「うん、分かってるよ」

「国語の先生厳しいから、恋、先に作文仕上げた方が良いよ。またにする。また今度呼ぶよ。」

「言っとくけど僕に頼んでも書かないからね。まったく。学校の作文なんて、適当に済ませれば良いのに。」



 ガラガラと戸を開けて廊下に出る。

 話しながら階段を降りて行くと、パラパラと下校する生徒たちの姿が見えた。


 前庭の花壇を通って校門を出て、理央と分かれると、通学路を歩きながら宗介が口を開いた。



「恋、今度のキャンプの最中、狐になったりしちゃ駄目だからね」


 恋は首を傾げた。



「キャンプ場で狐が出たら、クラス中大騒ぎだ。人に戻るタイミングを間違えて、お前があやかしだってバレたらどうするの?。」

「大丈夫だよ、多分」

「多分じゃなくて。子狐の姿のまま食べたり、バスに乗ったりする訳にはいかないだろ。ちゃんと弁えろよな。本当に。」

「……だって、狐なんだから」



 恋は困った顔で言った。



「ったく。お前はどうせ山で変身したがると思った。先に言っとく。あやかしは怖がられるし、驚かれるの。僕以外にお前があやかしだって知られちゃ駄目だからね。」

「え、でも」

「でもも何もない。狐になるのは僕んちだけでにしなっていつも言ってるだろ。大体、おばさんも甘すぎるんだよ、お前に。叱らないからそういう風に好き放題するんだ。いつもいつも外で変身して心配させて。」

「……」



 宗介はしかめっ面で言った。



「約束。お前はキャンプ場で変身はしない。はい、返事。」

「……」

「返事。こら。」



 宗介に睨まれた恋は、黙ったまま上を見上げた。

 民家の通りの水色に澄んだ空を、小鳥が一羽、塀の上から羽ばたいて飛んでいった。

 恋は、狐の姿で山を駆け回るのを内心楽しみにしていた。

 宗介に言われなければ、もちろん恋は、キャンプ場で子狐の姿になって理央達にじゃれて過ごすつもりだった。


「も・し・もキャンプ場で狐が出たりしたら、ただじゃ置かないからね。」

 
 宗介は恋を脅す時にする声音で凄んだ。





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