幼なじみは狐の子。
中へ入ったレストランはお洒落で今風だった。
席に付くと、食事用に白いナプキンが配られた。
めいめい好きな物を選んで注文すると、ウェイトレスはかしこまりましたと言ってキッチンへ下がっていった。
「ここ来るの初めて」
「僕も」
「私も」
「僕も初めて。じゃあもしかして誰も来たことない?」
「美味しいかなあ」
恋が言うと䄭風がプッと吹き出した。
「美味しいよ。安心して。」
「見て、通りが見える」
二階の席だったので窓からは道行く人々が見えた。
料理が到着すると一気に賑やかになった。
「恋恋、このハンバーグおいしいよ。一口食べてみて。」
「本当?」
恋は白身魚のソテーを食べていたフォークで、切り分けられた理央のハンバーグを刺した。
「……おいしい」
「でしょう?」
もぐもぐ食べていると今度は䄭風が言った。
「このステーキもおいしかった。分厚くてボリュームあるし。新田さん、一口どう?。」
䄭風は自分のフォークにステーキを刺すと隣の恋の口元に持っていった。
「はい、あーん。」
「ありがとう。」
恋がステーキ食べていると、かちゃんと音がして、宗介がフォークを置いた。
「気にくわないんだよ。」
宗介が言った。
「樋口は恋といちゃつこうとすんな。気色悪い。ここ外だぞ。人居んのに。」
ステーキを食べながら䄭風が言った。
「僕は人が居ようと居まいと構わない。誰かみたいに無駄に見栄張らないしね。はい、新田さん、もう一口。」
フォークに肉を刺した䄭風に、宗介は思い切り嫌な顔をした。
「恋!。お前も、そうやって食ってんなよ。馬鹿だと思われるぞ。……おい、恋に触るな!」
䄭風がステーキ食べた恋の口元をナプキンで拭うと、宗介が叫んだ。
䄭風もフォークを置いた。
「僕たちが親密なのをいつも妨害しようとして、鬱陶しいったらない。新田さんも駒井も田山も西井も、もう分かってる事だろ。僕は新田さんが好きだし、だからいつも新田さんにくっついてる上野が邪魔でならない。」
䄭風はそこで言葉を切った。
「迷惑。なんで居るんだろう。」
宗介が何か言い返す前に、口を開いて恋に言った。
「新田さん、上野なんかじゃなくて僕を選んでくれるでしょう?。」
と、宗介のナイフが飛んで行って、䄭風に当たった。広げていたナプキンに飲み物が溢れた。
「何するんだよ!。」
「ざまあみな。僕だって、お前がいつも邪魔でなんないんだよ!。いついつも恋にしつこく付き纏って……」
䄭風は立ち上がって言った。
「暴力。新田さん、危ないから。」
「恋には関係ない。」
「2人とも辞めなよ。」
立ち上がった宗介に理央が叫んだ。
「恋、恋が優柔不断だから悪いんでしょ。さっさとどっちか選びなよ。」
「そうだよ。恋。どっちつかずは良くないよ。」
明日香の声に、恋は俯いて呟いた。
「選ぶって言ったって……私は………」
恋がふと顔をあげると、䄭風の洋服に溢れたジュースが掛かっているのが見えた。
「樋口くん大丈夫?」
宗介はハア、と忌々しげに短くため息をついた。
「僕もう帰る。」
「宗介!」
「勝手にすれば?。樋口とごゆっくり。それじゃあね。」
宗介の背中が階段を降りるのを横目で見ながら、䄭風が言った。
「新田さん、上野の事なんか気にすることないよ。リラックスして。」
䄭風は平気な顔でスタンドからメニューを取った。
「居なくなってくれてせいせいする。新田さん、デザートに何を頼みたい?。」
恋は困惑した顔で、渡されたメニューを受け取った。