噛んで、DESIRE


けらけらと笑う吾妻くんは、いつもの彼だった。

どこか孤独を背負う彼の表情は、いつだって読み取れない。


それが彼の意思表示なのかもしれない。


弱さを見せないけれど、滲み出る孤独。

それは時に、美しさとなるから。



「だからさ、俺、ここに帰っていい?」



吾妻くんは自分では、飄々と言ったつもりなのかもしれない。

でも、少しだけ、不安そうに目を細めたのを、わたしは見逃さなかった。

だからわたしは、彼と同じように、なんでもないことのように、こくりとうなずいた。



「……おかえりなさい、吾妻くん」



わたしの言葉に、彼は驚いたように金髪を揺らした。

……嬉しい、と思ってくれたのかもしれない。


そして、すぐに恐ろしいほど美麗な笑みを浮かべて近づいてくるものだから。

急いで吾妻くんから逃げるように家の中に駆け込み、そのまま逃亡劇を繰り広げたことは……言うまでもない。




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