リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜


 ○公園(夕方)

 千晶に腕を引かれて歩く菜穂子。公園の人気のないガゼボの中で立ち止まり、こちらを振り返る彼。

 千晶「慶さんのこと気になってんの? お前」
 菜穂子「別に、そういうんじゃないわよ。それに向こうだって私のこと相手にしてないわ」
 千晶「それは分かんないでしょ」

 ガゼボの壁に壁ドンされる。
 間近に(マスクを着けた)彼の顔があって、心臓の鼓動が早くなる。

 千晶「お菓子の作り方教えるとか、そんな面倒なこと気がないとしないから」
 菜穂子「それは千晶の場合でしょ?」
 千晶「男が親切にするのなんて、下心あるに決まってんだろ」
 菜穂子「決めつけがすごい」

 彼のことを突き放そうと胸を押すが、びくともしない。手首を掴まれて壁に押さえつけられる。

 千晶「こんなに弱くて、何かされても抵抗できないだろ? 前から思ってたけどお前、隙ありすぎだから」
 菜穂子「……千晶、嫉妬してるの?」
 千晶「さぁね。ただ、友達として忠告してんの。だいたいお前は昔から鈍感すぎ――」

 ぐうぅ。そのとき、千晶のお腹が鳴る。

 千晶「…………」
 菜穂子「…………」
 菜穂子(さっきご飯食べてきたばっかなのに)

 お腹の音を聞かれて気まずかったのか、千晶が腕の力を緩める。すかさず彼のことを押し離す。

 菜穂子「思春期の男子みたいな食欲ね」
 千晶「仕事柄ずっと動いてるから」

 菜穂子は小さく息を吐き、ベンチに腰を下ろし、テーブルにタルトの入った箱を置く。箱を開けていると、彼が中を覗き込んだ。

 千晶「マスカットタルトだ。すげー美味そう」
 菜穂子「でしょ。教えてもらいながら私が作ったの。よかったら食べて」
 千晶「いいの? ありがとう、いただきます」

 箱の中には、親切にもフォークが入っていた。

 菜穂子(本当に気が利く人……)

 フォークを渡すと、彼はタルト生地にフォークを指し、ひと口口に運ぶ。

 千晶「うまっ。めっちゃ美味しいよ。ありがとう菜穂子」

 柔らかく目を細めた千晶を見て、菜穂子はふっと笑う。

 千晶「なんかおかしい?」
 菜穂子「ううん。想像してた通りの反応だなって……」
 千晶「――それってさ」

 彼はずいとこちらに顔を近づけて真剣に言う。

 千晶「これ作ってるとき、俺のこと考えてくれたってこと?」
 菜穂子「! ちが、」
 千晶「じゃあ目見て答えて」
 菜穂子「…………」

 彼の真剣な眼差しに射抜かれて、胸が音を立てる。菜穂子は頬を赤くしながら頷いた。

 菜穂子「……考えてた」

 その反応に千晶も戸惑い、口元を手で隠しながら目を逸らし、呟く。

 千晶「何その反応、やば。可愛すぎ」

 菜穂子はふいと顔を逸らして言う。

 菜穂子「いいから、さっさと食べて。クリーム溶けるわよ」
 千晶「そうだね。……はい、あーん」
 菜穂子「!?」

 フォークはひとつしかない。ひと口分をこちらに向けてくる千晶に、また顔が赤くなる。

 菜穂子「そういうの、やめて――むぐ」
 千晶「いいから食えって。ほら、美味しいだろ?」
 菜穂子「美味しい……けど」
 千晶「はは、また照れてる」

 菜穂子モノローグ【カフェで食べたのも同じフルーツタルトなのに】
 菜穂子モノローグ【今はもっと、甘く感じる】

 タルトを口に含む菜穂子を見ながら、頬杖をつき愛おしげにこちらを見つめる千晶。

 菜穂子(私のことからかって楽しんでるんだわ……)

 千晶は言った。

 千晶「あのさ。俺今日はもう仕事ないんだけど、この後ちょっと付き合ってよ。もちろん――友達として」
 菜穂子「友達として……なら」

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