【完結】好感度-100から開始の乙女ゲーム攻略法 〜妹に全部奪われたので、攻略対象は私がもらってもいいですよね〜

(顔色……よくないみたい。汗をかいているし、熱があるのかしら)

 ロアンは小さく唇を開き、無防備に眠っていた。呼吸が少し荒く、額が汗でしっとりと湿っていた。いつも澄ましていて大人びた雰囲気があるが、寝ている顔は子どもみたいだ。
 おもむろに手を伸ばし、指で彼の額に触れる。やはり熱がある。そっと手を引こうとしたとき、ロアンが手をぎゅうと握った。

「わっ、ごめんなさい。起こしてしまいましたね」
「夢の中にまで現れるんだね、君は」
「へ……?」

 どうやらロアンは、ここを夢の中だと勘違いしているようだ。熱が出ているせいで、夢と現実の区別がついていないのだろうか。彼は半身を起こして、こちらをまじまじと見つめた。その眼差しは熱を帯びていて、胸の奥が切なく締め付けられる。瞳の奥に見える熱は、彼の体温が高いせいなのか、あるいは別の理由があるのか、分からない。
 彼は咳き込み、口元に手を添えながら呟く。

「ごほっけほ……っ。夢の中なのに、体が重いな。でもルサレテを見ていたら、少し楽になった気がするよ。……一週間顔を見ていないだけなのに、ずっと君が恋しくて……切なかった」
「あ、あの……?」
「ふ。困った顔も可愛いね」

 ふっと慈しむように目を細めた彼は、ルサレテの長い髪をひと束すくい上げるようにして撫でる。その仕草が艶っぽくて、心臓の鼓動が速くなっていく。
 ロアンは髪を弄んだあと、ルサレテの陶器のような滑らかな頬に手を添え、親指の腹ですぅと触れた。
 恋人にするようなスキンシップに、ルサレテは顔を紅潮させて俯く。このままでいたら心臓がもたないので、消え入りそうな声で訴えた。

「ロアン様……あの、ここは夢ではないです…………!」
「――え?」

 ルサレテが恥ずかしくて赤くなっている顔を見て、ロアンの顔は逆に、血の気が引いて青くなっていく。彼はすごい勢いで手を引き、「すまない!」と謝罪を繰り返した。ルサレテは俯きがちに尋ねる。

「そんなに……私に会いたかったですか?」
「……今のは聞かなかったことにして。本当に」
「…………」
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