青春は、数学に染まる。
第四話 溢れる感情

保健室


早いもので、もう2学期の中間考査の時期がやってきた。





伊東と早川先生のことについて悩んでいたのも束の間。

あれから至って “普通” の教師と生徒として過ごしていた。





放課後は数学補習同好会のせいで相変わらず数学漬けだが、そこでも雑談をする程度。

まぁたまに…それ生徒にする? ということも起こり得るが…。






「明日から中間考査期間ですね。ここへの立ち入りも禁止になりますのでテスト前最後のお勉強です」
「はーい」


好きです、突然言われて驚いたあの日から特に何かあるわけではなく。

早川先生は本当にいつも通りだった。



「藤原が望むなら、早川先生がこれから作るテストを盗もうと思う…。どう、欲しい?」
「…そうですか。堂々と犯行予告をして下さりありがとうございます。教師あるまじき行為ですので、教育委員会に通告しときますね」
「へへっ。冗談だよ、早川。藤原、自力で頑張れ」

そう言って伊東はガッツポーズをする。
早川先生は溜息をつきながら少し微笑んだ。



数学補習同好会は発足した時は、2人ともすぐに言い合いをしていた。


同好会として上手く機能するか心配をしていたが…。
最近は冗談を言い合いながら、何となくいい空気になっている気がする。


ただ、早川先生は相変わらず私を伊東から引き離そうとするけど。
数学科準備室に伊東が居ると、必ず空き教室へ移動する。


「しかし藤原さん、かなり数学出来るようになりましたよね。最初が0%とすれば、今は5%くらいです」
「それ出来るようになったと言うのですか?」

早川先生は微笑みながら私の頭をポンポンしてくる。
数学補習同好会では馴染(なじ)みの光景となっていた。

当然、その横で(うら)めしそうに見ている伊東。これも馴染みの光景だ。


「俺が数学を教えるって言っているのに。その方が絶対伸びるよ。そして早川、お前は藤原に触らない」
「伊東先生に言われる筋合(すじあ)いはありません」

早川先生は頭をポンポンするのを止めない。


…これこれ。
普通生徒にしないやつ。


早川先生は伊東が目の前にいても、平気で私に触れてくるようになったのだ。

それが嫌なのかと言われたら…別に私は嫌ではないから不思議だ。




しかも、恨めしそうな顔をする伊東すら可愛く思えてくる。私は頭がおかしいのかもしれない。



「藤原さん、今日も空き教室に行きますか」
「あーあ。誰もいないとこ行って一体何をする気やら」
「何をするのか確認したければ来ても良いですけど。()いて言うなら…あんな事や、こんな事ですかね? 絶対に伊東先生を仲間入りさせませんが」


早川先生はニヤッとした。やめて、それは意味深すぎる。




しかし、早川先生もキャラ変わったよね。
入学当初、真面目そうで固そうで七三分けで絡みにくそうな先生だと思っていたからギャップが凄い。


「はぁ。…藤原、数学もそうだけど他の科目も頑張よ。またテスト明けに会おうな」


伊東は諦めたように左手を上げて微笑んだ。


「じゃあ行きましょうか」
「はい。伊東先生、さようなら」
「おう、またな」


早川先生のあとについて数学科準備室を後にした。





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