青春は、数学に染まる。

愛おしい彼女

(side 早川)



僕の目の前で、大きな牛串を頬張る彼女。
花畑でゆっくりとした時間を過ごした後、屋台で軽食を食べることにした。藤原さん、お肉が好きらしい。


膨らんだ頬っぺたが可愛い。



しかし…夢みたいだ。藤原さんとデートだなんて。

デートに誘った日からずっとドキドキしていて落ち着かなかった。
…そんなみっともないこと、藤原さんに言えませんが。




僕はいつから、こんなにも藤原さんのことを好きになっていたのだろう。






「真帆さん。次は何を食べますか?」
「えーっと、クレープとか……?」
「真帆さんが食べたい物を食べましょう」

そう言ってクレープの屋台に向かう。

この寒い中クレープを食べる人はいないのだろう。
そこだけ列が出来ておらず、スムーズに注文ができた。


「いちごチョコをお願いします」
「じゃあ僕はバナナにしましょう」
「かしこまりました」

店員は会計を済ませた後、慣れた手つきでクレープを作る。
藤原さんはクレープが出来上がる様子をわくわくしながら見ていた。



「お待たせしましたー! クレープ2個です! こちらは、今の時期だけ。カップルさんにサービス中です」

店員はクレープと一緒にハート型のチョコレートを2つくれた。

「ふふ、ありがとうございます」

藤原さんと一緒に居てカップルに見られることに喜びを感じた。
もう良い大人なのに、我ながらどこまでも子供みたいだ。

「カップルですって」
「カップルですよ」

嬉しそうに微笑んでいる藤原さんを見て、僕も思わず頬が緩む。愛おしい気持ちが止まらない。







日も落ちてきた。
太陽が隠れ、日中よりも寒さが増す。

「真帆さん。寒さは大丈夫ですか?」
「大丈夫です」

そういう藤原さんは耳まで真っ赤になっている。

「ライトアップまでもう少し時間があります。温かい物でも買いますか」
「はい」



日中歩いている時に見つけた『いちごぜんざい』の旗が立っている場所に向かう。

そこは建物の外まで列が出来ていた。



「お昼はスカスカでしたけど、皆さん考えることは同じですね」
「寒いですからね」

手袋をしている両手に息を吹きかける藤原さん。
僕はその手を握った。手袋越しにほのかな体温を感じる。


「真帆さん、いちごぜんざいって知っていますか?」
「知らないです」
「僕も同じです。どんなものだと想像しますか?」
「うーん、いちごがすり潰して入っている…ですかね」
「そうきますか。…僕は、いちごの果汁が隠し味のように入っているかと思います」
「それもありそうです」

未知の食べ物『いちごぜんざい』。僕はこれまでの人生で出会ったことが無いが、ポピュラーな食べ物なのだろうか? 少し不安を覚え、普通のぜんざいにしようかな…と考えていると、藤原さんが興奮しながら声を上げた。

「あ、あれ!」

建物から出てきた人の手元を見ている。その視線の先には『いちごぜんざい』があった。

「ほう…。いちごがそのまま乗っているのですね」
「可愛いです!」

器の中に普通のぜんざいが入っていて、その上に生のいちごが2個乗っている。

ぜんざいにいちごが入るなんて。びっくりだ。

「私、あれにします」
「僕もそうします」



自分たちの番が来て、『いちごぜんざい』を2つ頼んだ。
温かいぜんざいに冷たいいちごが合わさって新感覚。甘いぜんざいと甘酸っぱいいちごのバランスが良い。


「美味しいです」
「本当、美味しいですね」



ベンチが空いておらず、階段の(はし)に腰を掛けた。
藤原さんが僕にピッタリくっついてくれているのが嬉しい。


先に食べ終わった僕は、横でゆっくり食べている藤原さんの肩を()いた。

「先生、人前ですよ」
「先生じゃないです」
「あ、裕哉さん…」
「今日は大丈夫です。誰も見ていませんし…僕らのことを知っている人もいません」



藤原さんはぜんざいを急いで食べきり、僕の体にもたれかかった。



幸せ過ぎる。
このまま時間が止まれば良いのに。



そんな子供みたいなことを思う。 






しばらく無言でくっついていると、アナウンスが流れ始めた。
もうすぐライトアップがされるみたいで、カウントダウンが園内に響く。

「時間みたいですね」
「ドキドキします」

5! 4! 3! 2! 1! 点灯!』

点灯、の言葉と同時に園内に施されたイルミネーションが同時に点灯した。一気に周りが明るくなり、他のお客さんたちの歓声があちこちから上がった。



僕の腕の中で丸くなっていた藤原さんも起き上がり、目を輝かせて辺りを見回していた。

「綺麗…!」
「凄いですね」


大きなツリーやサンタ、来年の干支など、色々なイルミネーションが輝いている。クリスマスは過ぎたけれど、イルミネーションはクリスマス関連がメインみたい。



僕のせいで、藤原さんと過ごせなかったクリスマス。
その時間を取り戻しているかのような気分になる。



「移動しましょう」
「はい」



ライトアップされてから人の数も非常に増えた。
藤原さんとはぐれない様にしっかりと手を握る。




僕達は昼間に訪れた花畑の方に向かうことにした。
道中も装飾されていて本当に綺麗。


昼も通ったトンネルを抜けると花畑エリアが目の前に広がった。
花壇ごとに様々なイルミネーションが施されており、昼間とはまた違う雰囲気が漂っていた。


「凄い…!!」

感動して歓声を上げる藤原さんが可愛い。


僕はスマホを取り出して、喜んでいる藤原さんの後姿を写真に撮る。

「あ、裕哉さん。盗撮ですか」
「可愛い彼女の姿を写真に残したかったのです」

そう言うと僕の元に駆け寄ってきた。
そして僕のスマホを取ってインカメラにした。

「一緒に撮りましょう」

僕の横に立ってカメラを構える。僕は少し屈んでカメラに入るよう調整をした。

「良い感じ!」

流石は現役女子高生。自撮りが上手い。
被写体を入れるのは勿論、後ろのイルミネーションまでバッチリと入っている。


「お上手ですね」
「有紗と良く撮るんです」

藤原さんのお友達。可愛い真帆さんと良く写真を撮るなんて。


少しジェラシーを感じた。


「…え、もしかして有紗に嫉妬しています…?」
「え?」


顔に出ていたのだろうか。
藤原さんが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。


「嫉妬…。僕、顔に出ていましたか?」
「はい」

実は昔から感情が顔にすぐ出てくる。
僕の悪いところだと自覚はしていたが、そこまで分かりやすいとは。

「すみません。少しだけ、お友達に嫉妬していました…」

素直に白状すると、藤原さんは大笑いした。

「有紗は親友です。それ以上も以下もありません」

僕は恥ずかしくなり、顔が見えないように藤原さんを抱き締める。

「ごめんなさい。大人気(おとなげ)ないです」
「ふふ、そんな裕哉さんも可愛いですけど…。有紗にだけは嫉妬しないで下さい」





…藤原さんは大人だ。





愛おしい、僕の大事な可愛い彼女。







(side早川 終)










 
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