気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 もしかして咲良に遠慮しているのかと気になり聞いてみる。予想外に颯斗は平然と頷いた。
「もちろん。駒井さんは?」
「私は終電ギリギリは避けたいので、十一時過ぎにはここを出るつもりです」
 もっと楽しみたい気持ちは大きいが、明日も仕事もあるので羽目を外し過ぎる訳にはいかない。
「それならまだ一時間以上あるな」
 満足そうな颯斗に、咲良は首を傾げる。
「でも渡会さんは帰った方がいいのでは? さきほどの彼女が待ってるんじゃないですか?」
 言った直後に、まるで探るような質問だと思った。けれど颯斗に気にした様子はなく、自然に答える。
「彼女は同僚で、無事に帰ったと連絡が有ったから問題ない」
「同僚、ですか?」
 それは意外だった。彼女が颯斗さんと呼びかけた様子に親しさを感じたし、ふたりはとてもお似合いに見えたから、てっきり恋人同士か、それに近い関係かと思った。
「そう。ただ事情があって世話係を頼まれているから、一応帰宅報告だけはして貰っている」
「そうなんですね」
 彼女が颯斗の恋人でなかったからと言って、状況に変化はない。そう分かっているものの、咲良の胸は高鳴った。
 彼とつきあいたいとか、そんな期待をしている訳じゃない。ただこの時間がもう少し続くと思うと嬉しくなったのだ。
「さっきの手際は見事だったな。トラブルに慣れているように感じたけど仕事柄?」
 先ほどのシーンを思い出しているのか、颯斗が興味深そうに問いかけて来る。
「はい、まさにそれです。上司がトラブルに遭ったときに秘書として対応する必要がありますから。自然とあれこれ対策するようになりました」
 そうしないと苦労するのは自分だ。
 金洞副社長に振り回された数々の出来事が思い浮かび、咲良は遠い目をする。
 その様子を見た颯斗がふっと笑った。
「随分苦労しているみたいだな」
「そうですね……」
 会社では美貴にもなるべく愚痴を言わないように気を付けている。でもプライベートの今は少しは吐き出しても許されるような気がして、咲良は小さく頷いた。
「私が上司の考えを理解出来ていないのが悪いんですけど、毎日予想外のことが起きて右往左往しています。おかげでトラブルに強くなりましたけど」
(海外帰りの飛行機で鍵を失くされたときは、本当に大変だったな)
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