気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 どこに連絡していいかわらかず、あれこれ電話しまくった。おかげで次はスムーズに対処出来そうだ。
「……でもトラブル対応が上手くなっても、秘書としてスキルアップ出来ているとは言えないですよね」
 秘書として求められるのは上司の代わりにレターを書く際の語学力やマナー知識、またはスケジュール管理力や他部署との折衝力ではないだろうか。
 はあと溜息を吐くと、颯斗が慰めるようにぽんと咲良の方を叩いた。
「もっと自信を持った方がいい。どれも駒井さん自身が習得した立派な能力だろ? 大変な上司の下で頑張れるんだから、どこに行っても立派な秘書として通用する」
「そ、そうですかね」
 咲良は熱を持った頬を両手で抑えた。
「そのバッグには、駒井さんが苦労して来た歴史が詰まっているんだな」
 颯斗が咲良の足元のバッグに目を遣った。
「ふふ……そう言うとこの大荷物も大層なものな感じがしてきますね。今日はとても嫌なことが有ったんですけど、明るい気持ちになります」
「落ち込んでた件か。何が有ったんだ?」
「実は上司が急に仕事をキャンセルしていなくなってしまったんですけど、突然のことに驚いて引き止められなかったんです」
 颯斗の顔から笑みが消えて、驚きに染まる。
「仕事を放って消えたのか?」
 信じられないといった感情が籠ったその声に、咲良はこれが普通の反応だとほっとしながら頷く。
「はい。その後のフォローで一日が終わってしまいました」
「考えられない行動をするな。逆にその上司と話してみたい気がしてきた」
 その言葉に今度は咲良が仰天した。
「それは止めた方がいいです」
「まあ癖が強そうな人物だからな。でも表だって問題が起きていないとしたら駒井さんのフォローのおかげだな」
「いえ、私なんて上司に振り回されてばかりで、まだまだです。でも少しでも役に立てているのだとしたらよかった」
 咲良は口元をほころばせた。
(渡会さんの部下はいつもこうやって気分を上げて貰っているのかな)
 恐らく颯斗は秘書がつくような立場にいるだろう。会話の中で、上司と秘書の立場どちらも容易く想像しているようだから。
 何より彼からは人の上に立つもの独特の空気を感じる。
「渡会さんのおかげで、元気になりました。落ち込むことが多いけど、秘書の仕事は好きなんです。だからもっと頑張りますね」
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