気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 もしかしたら咲良が心の奥で望んでいる言葉を、彼が口にしてくれるかもしれない。そんな予感がするからだ。
 会社のことも自分の立場についても、今は考えられない。
 咲良が見つめる中、颯斗がゆっくり口を開く。
「駒井さん俺が今何を考えていたか分かる?」
 勿体ぶった言い方かもしれないが、咲良はそう感じなかった。
「いえ……でも私と同じことを考えてくれていたらいいなとは思ってました」
 これで颯斗なら咲良がこのまま別れるのを惜しんでいる気持ちを察するだろう。アルコールが普段より回っているからか、自分でも驚くくらい積極的な発言だ。
 普段の咲良なら絶対に言えない言葉。でも大胆になりたくなる程の魅力が颯斗には遭って、それは本来の咲良が持っている羞恥心と貞操観念をはぎ取る程だった。
 颯斗が満足そうに目を細める。
「このまま別れるのは惜しい、なんて未練がましいことを考えてた……今夜一緒に過さないか?」
「……はい」
 答える声が震えてしまったけれど、迷いはなかった。
 一夜で終わる関係だとしても、彼と離れたくないと強く思う。
 ドクンドクンと鼓動が跳ねる。体中に熱が周り現実感が薄れていく。
「出ようか」
 颯斗の言葉に咲良は頷き席を立つ。
 舞い上がっているからか、現実感があまりない。
颯斗に促されて霽月を出た。
 暦上は春とはいえ、四月の夜の風は冷たい。けれど寒さを感じないくらい全ての感覚が颯斗に向かっていた。
 颯斗は通りに出るとタクシーを停めた。
 乗り込むときにふらついてしまった咲良を、彼は力強い腕で支えてくれた。
「大丈夫?」
「は、はい」
 腰に回った腕を意識してしまい、顔に熱が集まる。
 咲良を見下ろす長身も、広い背中も、何もかもが彼の男性を感じさせるものだ。
 後部座席に並んで座ると、颯斗の大きな手が桜の手を包み込んだ。
 驚いて颯斗に顔を向ける。すると彼は端正な顔に甘美な笑みを浮かべ、咲良の呼吸を乱した。
 繋いだ手から、動揺が伝わってしまいそうだった。
 それほど時間をかけずに辿り着いたのは、最近開業したばかのラグジュアリーホテルだった。
 颯斗が慣れた様子でチェックインをしたのち、彼のエスコートで上階の部屋に向かう。
 銀座の街並みを見下ろす部屋は和テイストを取り入れた洋室で、設備と広さから恐らくスイートだ。
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