拾われデザイナーと魅惑のランジェリー 〜副社長は名ばかり婚約者を溺愛中〜
トクン、と胸が甘く鳴った。
何だろう、この初めての感覚。すうっと、私の全部が彼の微笑みに惹き込まれてしまう。

「善処します」

急に恥ずかしくなって、顔をそむけた。鼓動が今まで感じたことないくらい、速まっている。

そんなことはお構いなしに、崇臣さんはテーブルに無造作に乗せていた私の手を優しく握った。同時に、胸がぎゅっと潰されてしまいそうなくらい苦しくなる。

「頑張るだけじゃダメ。睡眠も食事もきちんと取ること」

崇臣さんは言いながら私の顔を覗き込み、そっと私の目元を指でなぞる。クマがあるのを、誤魔化せていなかったらしい。

けれど、そんなことよりも。触れられたところが熱を持ち、目の奥がじんわり刺激される。泣きたい気持ちなんでどこにもないのに、なぜだか涙が溢れそうになる。それでもこの人の顔を、見ていたいと思ってしまう。

「好きなものに熱中できるのはすごいこと。でも、それでは君が心配だ。もし守れないなら、一緒に寝る? どうせ寝室は一つ壁を隔てた隣だし――」
「そ、そんな! ……こと、できるわけ、ない、です……」

冗談だと分かっている。けれど私は、胸の中で真面目に考えてしまう。そうであればいいと、願ってしまう。

ああ、そうか。
私、彼が好きなんだ。

けれど、彼が私を心配するのは、私がデザイナーだからだ。ここに、愛はない。
急に虚しさが胸を襲ったら、こみ上げていたなにかも収まってしまった。

「冗談じゃなかったんだけれど」

零された彼の呟きは、虚しさに支配されている私には聞こえなかった。
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