恋の病に、堕ちてゆく。
気を使って傷の手当をすることも、風邪引かないようにドライヤーをかけることも見張りとは違うよ。


「ありがとうございます」

「なに?」

ドライヤーの音が私の声を掻き消したようだ。


「手当してくれて、ありがとうございます!」

「気にするな。慣れているって言っただろう?」

「一生、内緒にしてくれますか」

「ん?」

「男の人に裸を見られたってお母さんが知ったら、発狂すると思うので」


高校1年の時にクラスの男子に義理チョコを渡そうと手作りしただけで、お母さんにとっては一大事だったようであれこれ聞かれて面倒くさかった。


今日のことを知られたら、叫び出すと思う。
相手は誘拐犯で、よく知らない男性だから尚更だ。


「そんな、大したことしてないだろ。正直に言えば誤解されないよ」

「……でも、見ましたよね?まったく見てないとは言えないですよ!」

「背中だけだろ」

なんともないことのように青波は言った。
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