ひとつのおむすびがきっかけで、凄腕救急医に溺愛されることになりました
それに、もしもあのとき蒔田先生が助けてくれなかったら、私は今頃どうなっていただろう。
もしかしたら殺されていたかもしれない。

そう思うと、蒔田先生とあの場で居合わせたことは奇跡に近いのではないだろうか。


「あっ、名刺……」


ふと蒔田先生の名刺の存在を思い出し、財布から取り出した。

蒔田涼真とフルネームが記載してある右下辺りには、彼のスマホ番号、メールアドレス、メッセージアプリのIDが記載してある。

『なにかあれば、連絡してくれればいい』と言ってくれていたけれど、左足もきっとすぐに治るはず。
そもそも、連絡していいと言われ、簡単にできるものでもない。

ましてや、まだ出会って間もないし、連絡される側も迷惑に違いない。

それに私は……。


「そんな簡単に男性を信用しちゃダメ」


誰もいない部屋に、私の声が虚しく響いた。


そう。簡単に男性を信用してはいけないの。
こうやって簡単に信用するから、痛い目を見ることになってしまったんだ。

優しくしてくれたからって、今後もそうとは限らない。

やっと心の傷が落ち着いてきたというのに、もう傷口に塩を塗るようなことはしたくない。

私は名刺を財布の中にもう一度しまうと、シャワーを浴びに浴室へと向かった。
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