ひとつのおむすびがきっかけで、凄腕救急医に溺愛されることになりました

おむすびを売る彼女の姿ーside涼真ー

よく晴れた4月の初旬。
藍木総合病院で救急医として勤務している俺は、この日は他院での研修だった。

着慣れないスーツを身に纏い、大量の資料と共に近くの大学病院へ出向いていた。

もちろん、講師として。


救急医になって早5年。
自分が小学生の頃、抗がん剤治療のために別の病院――大音総合病院で治療を受けていた母。

体調を崩した母が大音総合病院に救急搬送された際、対応してくれた救急外来の医師の対応が素晴らしかった。

その医師の的確な判断と処置のおかげで、母は今でも元気に生活している。

〝俺も、あんな医者になりたい〟
なんの夢もなかった俺が、初めて持った夢。

『救急医になって、患者を救う』と、そう決めた俺は、街でも優秀なドクターが揃っているという藍木総合病院での勤務を希望させてもらった。

念願叶っての救急医としての仕事は毎日忙しいけれど、非常に充実している。


「蒔田先生。もしよければ、お昼休憩に入ってくださいね」
「あぁ、はい。ありがとうございます」


お昼休憩。声を掛けたのは、本日俺の助手として一緒に講習会にやって来た藍木総合病院の外科医、藤沢愛子(ふじさわあいこ)

年齢は俺よりも7つ下の25歳で、外科医になってまだ浅い。救急医と外科医は接点も多く、ともに手術もこなすため、助手としてやって来た。
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