ひとつのおむすびがきっかけで、凄腕救急医に溺愛されることになりました
もともと食事の時間が定まっていない職種ではあり、お昼になったからといってそこまで空腹を感じることはない。

しかし、今日は別。
忙しいであろうドクターたちが合間を縫って、わざわざ俺の講習会を聞きに来ている。

俺の講習会を楽しみにしていてくれたドクターたちがいる限り、きちんと説明できるようにしておかなければ。

いい加減な説明は、信頼を失う。

そんなことを考えながらぶらぶらとコンビニを探していると、ふと気になるお店が目に留まった。


「穂乃香おむすび……?」


こじんまりとした、可愛らしいお店。
入り口では、『穂乃香おむすび』と書かれた若草色のの暖簾が春風に揺られて宙を舞っていた。

そっと中を覗いてみると、お客は数人。
でも、大勢のお客が入った後なのか、陳列棚はほぼ空っぽだ。

その陳列棚の前で、1人の女性が新しいおむすびを陳列している様子が見えた。


「入ってみるか」


なぜか吸い寄せられるように店内に入ると、先ほどの女性が俺に気が付いて「いらっしゃいませ」と言ってくれる。

ふわりと優しい笑顔で俺の方を見ると、再びおむすびを陳列し始めた。


俺は多分、このときすでに彼女――陽菜に惚れてしまっていたのかもしれない。


その日は、陽菜におすすめのおむすびを教えてもらった。
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