岩泉誠太郎の結婚
「いきなり結婚は確かに戸惑いますけど、それが嘘でも冗談でもないなら、むしろそこまで真剣に考えてくれてることが、純粋に嬉しいと感じます」

「‥‥本当に?」

「はい。結婚できないとわかってる人とお付き合いすることに抵抗感があったので。その不安は解消されたと考えていいんですよね?」

「ああ!もちろん!全く問題ない!」

 彼女は結婚が嫌なわけではない?それどころか喜んでくれている?これは期待してもいいんじゃないのか?

「あと‥‥岩泉君が‥‥私を好きっていうのも‥‥」

「か‥‥かわいい‥‥好き過ぎる‥‥」

「誠太郎、心の声が漏れてるぞ‥‥」

 まずい。照れた彼女があまりにもかわい過ぎて、理性が飛びかけた。俺、落ち着け。

「ごめん。大丈夫。俺は安田さんのことがやばいくらいに好きだから、疑う必要はないよ」

「わざわざ言い直してそれって、誠太郎は一回深呼吸した方がいい。でも、誠太郎の椿ちゃんへの想いは、ずっとそばで見守ってた俺も保証するから、本当に信用して大丈夫だよ」

「うぅ‥‥」

 照れて赤くなった顔を手のひらで覆ってうずくまる彼女が、果てしなくかわいい。殺す気なのか?

 暴走回避のため、啓介のアドバイスに従って大きく深呼吸をする。

「他にも不安なこと、あるんだよね?」

「そうですね‥‥色々ありますけど‥‥やっぱり一番は、岩泉君に近づき過ぎると嫉妬や妬みの対象になってしまうことですかね?」

 嫉妬や妬みをなくすことは難しい。だからこそ最大の防御となる結婚にこだわったのだ‥‥

「今回視察のアシスタントに使命されただけでも、なんであの子が?って感じだったので‥‥副社長と親しい関係だと周知されたら、かなりやばいことになりそうだなと‥‥」

「社内では安田さんとの接触を‥‥控えるよ‥‥」

 おそらくプライベートでも気軽に会えるわけじゃない。結局これまでと何も変わらないじゃないか‥‥泣いてもいいだろうか。

「あの‥‥8年間、私と接点を持たなかった理由を聞いてもいいですか?」

「‥‥女の子達にしつこく付きまとわれてうんざりしてた俺は、高校に入ってすぐの頃、彼女を作ったんだ。特定の相手を作れば少しは楽になるかと思って。でも、俺と付き合ったせいでその子はいじめにあって、結局転校せざるをえなくなった‥‥凄く酷いことをしたと、今でも反省してる。それ以降、特別な相手を作らずに女の子達を平等に受け入れることで争いを避けてたんだけど、安田さんを好きになってそれも続けられなくなった。‥‥君を彼女と同じめに合わせたくなかったから、中途半端な状態で近づくことはできないと思ったんだ」
< 12 / 30 >

この作品をシェア

pagetop