岩泉誠太郎の結婚

話し合いの末‥‥

「安田さんの気持ちを考えず暴走したこと、もの凄く反省してる。この数日、不快な思いをしたよね?本当にごめん」

「いえ、そんな。私の方こそ、昨日は逃げ帰るようなことしてごめんなさい」

「今日は椿ちゃんが納得いくまでじっくり話し合って欲しいんだ。ここなら人目も気にしなくていいし、誠太郎が暴走したら俺が止めてあげるから、安心でしょ?」

「坂井君‥‥ありがとう」

 安田さんもあまり寝ていないのか少し疲れた様子ではあるが、リラックスした雰囲気で啓介と言葉を交わす。8年間、友人として彼女と関係を築いてきた啓介が心底羨ましい。

「あの‥‥これ‥‥」

 彼女が薬指から指輪を外し、気まずそうに差し出してきた。

「岩泉君の気持ちはとても嬉しかったんですけど‥‥この指輪は‥‥ちょっと‥‥私には不相応というか‥‥昨日はうっかり持ち帰ってしまいましたが、さすがにこれは受け取れません」

 もっとシンプルな物なら受け取ってくれるのだろうか?聞きたい気持ちをぐっと堪えて指輪を受け取る。

「そもそも結婚についてなんですけど‥‥岩泉君は三角商事の御曹司ですよね?岩泉君と私が結婚て、無理なんじゃないですか?」

「え?なんで無理だと思うの?」

「え?岩泉君は政略結婚するとか親が決めた相手と結婚するとか、前に坂井君に聞いたからかな?そういう世界観なんだろうなって。それに私は当てはまらないのに、なんで私なの?って頭の中でグルグルしちゃって‥‥」

「確かに俺の家は少し特殊だけど、安田さんとの結婚に関しては、父が出した条件をクリアしたことで正式に認めてもらってるから、何も問題ないよ」

「え?岩泉君のご両親が、私との結婚を認めてるんですか?」

「ああ。君を諦めることができないと自覚した時に父と話して、それから4年、更に追加で1年かけて条件をクリアした。かなり頑張って結果を出したから、さすがに反対はされないはずだよ」

「私、岩泉君との結婚はありえないと思ってたから、それで凄く悩んでしまって‥‥」

「結婚はありえないって‥‥そんな一時的な関係で満足できるなら8年も我慢はしなかった。安田さんへの気持ちはそんな中途半端なものじゃない。そこだけは絶対に揺らがないから、安心して欲しい」

 まずい、俺の発言が重過ぎて、また彼女を困らせている。

「ごめん、結婚の話はやめておこう。安田さんを困らせたいわけじゃないんだ。他にも心配なこととか‥‥」

「いや、違うんです」
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