制服レモネード
『ここは大胆にほっぺにキスくらいが会場もうんと盛り上がると思うんだけど』

リハーサルの時の鈴木先輩の言葉が脳裏を過ぎった。

「梓葉、すげえ綺麗だよ」

静かに龍ヶ崎くんにそう言われたのがあまりにも恥ずかしくて、目を逸らしながら、「龍ヶ崎くんも」と返す。

そして、龍ヶ崎くんは突然私の手を取ると、私の手の甲に軽く口づけした。

ううっ。これはこれで、緊張しちゃうって。

でも、頬にキスしなかったのは、優しい龍ヶ崎くんらしい。

私たちは顔を見合わせ、最後に客席に目を向ける。

その時だった。

客席の真ん中。目線先。バチっと目が合った。

いつもよりも目を見開いていた彼は、驚いた顔をしていて。

「え……矢吹……さん」

誰にも気づかれないような声だったけど、思わず声を漏らしてしまった。

私にそこでとどまる時間はもちろん無く、頭の中はパニックになりながら、ランウェイを後にした。

ずっと会いたくてしょうがなかったはずなのに、いざ顔を見ると、色んな不安が浮かんでくる。

そもそも、このファッションショーになぜ矢吹さんが来たのか、もし無事に会えたとして、別れ話だったらどうしようとか、また頭の中がぐちゃぐちゃだ。

「お疲れ様〜!さいっこうのショーだったよ二人とも!」

私の不安なんて知る由もない鈴木先輩は、そう言って私と龍ヶ崎くんに同時にハグをした。

「わ、私も最高にステキな思い出ができました。ありがとうございました!」

「こちらこそ、本当にありがとう。これから休憩挟んで賞の発表だから、この後は2人とも着替えて自由にして大丈夫よ。あ、差し入れくれた梓葉ちゃんのお友達にもよろしく伝えといてね」

私たちはそう話をしながら控え室へと戻った。
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