目と目を合わせてからはじめましょう
 今度は、私をファーの上に寝かせると、雨宮はスーツの上着を脱いで椅子の上に置いた。

 え?

 「失礼します」

 雨宮は私の方足を持ち上げると、膝を曲げさてお腹の方えと近づけをてきた。

「うげっ! 痛いーーー」

「我慢して」

 と言う彼の顔が目の前にあって、悲鳴を上げる。

そんなストレッチが、体勢を変えて続けられた。足を閉じたり開いたり、恥ずかしい格好までさせられるが、やられるがままどうする事も出来ない。

 雨宮の手に力が入るたびに、変な声が立て続けに漏れてしまう。

「はあ、はあ。」

息を切らして、横たわっていると

「ゆっくり、体を起こしてみて下さい」

雨宮が、膝まついて私と視線を合わせて言った。始めてまともに目が合ったきがする。この大男、こんな整った顔していたんだ。
言われた通り、ゆっくりと体を起こすと、さっきの強い痛みが薄れていた。

「あっ。動くかも」

「良かった。しっかり解しておかないと、痛みが長引きますから」

「そ、そうですか」

痛みが和らいで良かったが、複雑な心境だ。

「お湯に浸かると、もう少し楽になると思います。お風呂、入れてきます」

ええっーー

止める間もなく、雨宮は行ってしまった。何しろ動きが早い。


「準備しましたが、お手伝いしましょうか?」

シャツの袖を捲り上げて戻ってきた雨宮が言った。


「変態!」

私は怒鳴って、睨んだ。

「あっ。そういう意味では、すみません」

雨宮は、綺麗に頭を下げた。

 私は大きく息をついくと、少し落ち着いてきた気がした。


「もう、動かせるようになったので、大丈夫です。それより、どうして倒れたのか、教えていただけますか?」

 そう、ずっと気になっていたことだ。

「そうですよね…… 多分、ブランデーかと……」

「ブランデー? もしかして、ケーキに入っていた?」

「はい。それと紅茶にも」

「酔い潰れたってことですか?」

「職務上、あまりアルコールは口にしないのですが、ブランデーに特別弱い体質らしくて、寝てしまうんです。もう少し、大丈夫だと思ったのですが、一気に回ってきてしまって」

「だったら、言えばよかったじゃないですか?」

「いえ。任務ですから」

「いえ。迷惑ですから」

 はっきり伝えた方がいいだろう。


 そんな話をしていると、お風呂が沸きましたの音楽が流れた。

「事情はわかりました。お帰り下さい」

雨宮は立ち上がると、モニターフォンのところで何やら確認を始めた。

「家中の鍵は確認できてます。絶対にモニターを確認してから、玄関を開けて下さい」

「はい。あなたでない事を確認してから、開けます」

すると、雨宮がふっと笑った。


「本当に、ごめんな」

そう言って、雨宮は振り向いた。

どうして、急に笑うのよ。

キュ〜ン

えっ? 何で胸が…… 

そして、雨宮は風のように去って行った。


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