目と目を合わせてからはじめましょう
 シューーーっと、水しぶきを上げてジェットバイクが動き出した。スピードが上がっていく。思わず、雨宮の腰に回している腕に力が入った。

 「怖いですか?」

 「大丈夫! 最高!!! 気持ちいい〜」

 もー、本当に最高だ。

 雨宮の運転さばきは軽快で、スピードを出してカーブする。海の上を飛び跳ねるように走り、どこまでも行ける気がした。


 すると、急にジェットバイクのエンジン音が止んだ。

 「見てください」

 雨宮に言われ、海の中を見る。
 ビーチにはいなかった、大きな魚が優雅に泳いでいる。海の色も変わって、深い青に吸い込まれそうだ。

 「うわー。すごい、魚の群れ!」

 もう、私は大はしゃぎの大満足だ。


 「ほら、あれを見てみな。ウミガメじゃないか?」

 「ええっ! どれ?」

 「ほら、もっと先だ」

 「ああ、見えた! 二匹いる。親子かな?」

 「ははっ。どうだろうな?」

 顔は見えないけど、背中から少し笑った声が伝わってくる。どのタイミングだったのか分からないが、雨宮は敬語を辞めていた。


 「本当に、綺麗な海」

 ジェットバイクにまたがり、穏やかな波にゆられた。

 どこまでも広がる青さに、自分がなんだかちっぽけに思えてくる。簡単に飲み込まれてしまいそうな怖さと同時に、どんな風に泳いでもいいと思える自由な解放感。


 「海って大きいよな。すごく綺麗で嫌されるけど、こうして海の上にいると、少し不安になる。自分なんてたいした事ないって」

 前を向いたまま、独り言のような雨宮の声が波の音と重なった。
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