目と目を合わせてからはじめましょう
 「本当に、人間て小さい。だから、たいしたこと出来なくてもいいのかも……」

 「ふふっ。普通は、そんな事ない、よくやってるとか言って、嘘でも励ますものじゃないのか?」

 相変わらず、雨宮は前を向いたままだ。

 「ええー。だって、こんな青い大きな海を見ていたら、私なんてちっぽけだなって…… 海を左右するような大きな事、出来るわけないじゃないですか?」

 「まあ、そりゃそうだ」

 「でも、どんな型でも、どんな色をしていても、どんな思いがあっても、それはそれでいいんじゃないかって思えてきちゃって……  この海にしてみたら、たいしたこじゃないでしょ?」

 「ああ。自分を否定しなくていいってことか?」

 「そんな気がして来ません? こんなに大きな海見てると、何かにとらわれずに、もっと自由でいいのかも…… それに、失敗しても許してくれそうだもの」

 「面白い人だな?」

 「えっ? 私がですか?」

 「そうだ、他に誰かいるのか? 海の上だぞ。」

「たしかにそうですね? ははっ」

 何となく笑ってしまった。雨宮も笑ってる気がした。

しばらく、黙って海を眺めていた。


 「そろそろ戻るか? 大分時間オーバーしたな」

 「そうなんですか? 延長代払ってくださいね」

 「俺がか?」

 「はい。私は、ただ乗って来ただけなので」


 「なあ。言っておくが、少し無防備だぞ。こんな所まで、インストラクターだからって男と来たりしちゃダメだ。さっきの奴、明らかにスケベ根性出してたぞ」

 「ええ。そうでしかか? だって、お仕事でしょ?」

 「あてになるもんか。何かしら企んでる怪しい奴多いんだからな」
 
 雨宮の声が、少し低くなった気がした。



 「はーい。怪しい人の背中に掴まっている私は、どうすればいいんですかね?」

 「うるさい。しっかり捕まってろ」

 「ひぁーーーー」

 ジェットバイクが、勢いよくスピードを上げた。
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