青春は、数学に染まる。 - Second -

その後、2組に分かれ数学の勉強が始まった。
私は定位置の生徒机に座り、有紗は応接セットのソファに座る。


有紗も決して得意とは言えない数学。
開始30分くらいで泣き言を漏らし始めた。


「数学イヤ…帰りたい…」
「今日入部して、勉強開始30分しか経ってないよ!!」
「無理だよ~…浅野先生の鬼~」
「鬼じゃなくて天使!」
「どこが!!! もう少し優しく教えてくれないと!!」
「うーん、じゃあ分かった、特別だよ? 今からは小学生に教えるようにお勉強しましょうね~」
「はぁ!? 誰が小学生よ!!」
「的場さんが優しくって言ったじゃない!」
「優しくってそう言うことじゃなくない!?」


私と早川先生は無言で2人のやり取りを見ていた。何というか…お似合いというか…相性が良さそうというか…。


チラッと早川先生の方を見る。
目が合うと、先生は小さく頷いた。多分、同じことを思っているはず。



「良いコンビですね」
「良いですか?」
「多分、このペアは伸びます」
「?」


伸びるって…何が?
早川先生の言っていることが良く分からない。



私は『鳥でも分かる!高校数学②』をペラペラと捲りながら、有紗と浅野先生を横目に見ていた。







それから1時間が経ち、有紗の活動終了時刻になった。
有紗は…脳がショートしていた。

「数学イヤ…数学イヤ…」
「的場さん、よく頑張りました!」

浅野先生は有紗に向かってガッツポーズをする。それに応えるように有紗も小さく真似をした。

「真帆いつもこんなことやっていたなんて…尊敬する…。そして、何でずっと赤点なのか全く意味が分からない…」
「当たり前のように赤点のこと言わないで」
「ふふ、藤原さんの赤点は個性です」
「そんな個性いりません」

早川先生の腕を小さく叩く。有紗はソファにもたれ掛かりながら微笑んでいた。


「じゃあ、私帰るね」
「はい、的場さん。お疲れ様です」
「的場さん、また明日勉強しようね!」
「有紗、今日はありがとう。またね」

各々が見送りの言葉を発し、有紗は笑顔で数学科準備室から出て行った。



有紗の足音が遠ざかると、浅野先生は急にガッツポーズをして声を上げた。


「よっし! 数学補習同好会、初日終了! 嬉しい~放課後も数学を生徒に教えられるなんて嬉しい!!」




その様子を見て思った。浅野先生は、本当に数学が大好きで、教師という仕事が大好きなんだと。



無邪気な笑顔に思わず見惚れる。







「…浅野先生。次、軽音部がお待ちですよ」
「あ、そうですね!! 軽音部もきちんとやらなきゃ!! 早川先生、ありがとうございました! ちょっと行ってきます!!」

そう言って浅野先生も数学科準備室から出て行った。






2人が出て行った部屋には静けさが訪れる。



浅野先生の足音が聞こえなくなると、早川先生は私の頭をチョップした。





「え?」
「…浅野先生のこと、見すぎです」
「……」


不満そうな早川先生の表情。目を細めて、唇を少し噛んでいた。


「ヤキモチ?」
「違います」
「嫉妬?」
「どちらも同じ意味です。…これはきっと、独占欲です」




そう言って私の頭をもう一度チョップした。






しかし…本当に学校で抱き締めたりしなくなった。




伊東の件から早川先生は成長したと…しみじみ思った。









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