青春は、数学に染まる。 - Second -
第二話 2人の時間

映画


4月下旬の土曜日。
新学期で忙しくしていた早川先生がやっと落ち着いたこの日。


以前約束した、私が早川先生の家に遊びに行く日だ。


前回先生と学校の外で会ったのは、3月に神崎くんのライブ行った時かな。心配で駅前まで来ていた時。



ただあの時は有紗もいたから2人では無いけれど。







「…よし、準備オッケー」


今日は早起きをして、お弁当を作った。

お母さんに茶化されながら。




日頃料理をしないから手際は悪かったが、味は悪くない。
先生、喜んでくれるかな。



「真帆にしては見た目良くできたじゃない」
「でしょ?」
「何だぁ…真帆のお弁当良いなぁ。裕哉くんずるいぞ、わしも食べたい…」
「お父さんはまた今度ね」
「その今度は一生来ないやつだろ…」

先生が一度、お父さんとお母さんに挨拶をしてくれた。

その時に先生とお付き合いすることを認めてもらい、今がある。




今度お弁当作るよ、お父さん。
認めてくれた両親には感謝しかない。





「じゃあ、行ってくるね」
「気を付けてね」

先生の家まで電車で1駅。
そこから徒歩5分。


最近ハマっているロックバンドの音楽を聴きながら、駅に向かって歩いた。







3分間電車に揺られ、目的の駅で降りる。
陸橋を渡って改札口へ向かうと、遠目に見慣れた人の姿が見えた。



私は小走りで駆け寄ると、その人は微笑んで片手を上げた。



「真帆さん」
「せ…………おっと」


早川先生。


長い前髪が風に吹かれて揺れている。
いつもと違う黒縁眼鏡を掛けていた。


私は急いで改札口を出て、そのまま先生の胸元に飛び込む。


「今、危なかったですね」
「癖って怖いです」


先生は笑いながらギュッと抱き締めた。


「真帆さん、おはようございます」
「おはようございます…というか、何で居るのですか…」


家まで1人で行く予定だったから、駅で先生が待っているなんて想定外だった。


先生は抱き締めていた腕を解いて、優しく手を握ってくれる。



「迎えに来てはダメでしたか?」
「いえ、そんなことはないです。ただ、びっくりしました」


手を繋いだままゆっくりと歩き出す。
先生は私の荷物を無言で持ってくれた。


「この時間の電車で来るって分かっているのに、大人しく家で待つなんて…勿体無いでしょう」


本当は家に迎えに行きたかったですけどね、と先生は付け足した。






ちょっと前まで、早川先生は本当に辛そうだった。



精神的に安定しない様子も見られて心配な毎日を過ごしていたが…数学補習同好会に有紗と浅野先生が加わってから、少しだけ前の先生に戻っている…と思う。多分、悩みの種が減ったのだろう。



隣で少し微笑みながら歩いている先生が可愛い。
辛そうな表情より、その表情が見たい。


今日一緒に過ごすことで、少しでも改善されれば良いけれど…。




そんな思いでいっぱいだ。






 
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