【短編】赤金の衣が君色隠す ~一族のために犠牲になれと言われた名家の姉は、金魚のあやかしに溺愛される〜
「その日、私が次期当主として秘術をお披露目することになったのよ」
「……おめでとう、ございます」

 夢璃の少しの感情の浮き沈みを感じ取ったのか、日葵があざ笑うようにわざとらしく問いかけた。

「成人のお祝いをしてあげるとでも思ったの?」
「……い、いいえ」
(……気にかけてくれるなんて、なんで一瞬でも思っちゃったんだろう)
「ただでさえ役立たずのごく潰しに、お祝いなんてしないわよ!」
(成人することで私はお払い箱になるから、日葵が次期当主として正式に名乗りをあげるのね)

 夢璃の心に浸透させるように、夢璃がいかに花園家にとって無能なのかを語っていく日葵。

『こいつ、なんでそんな酷いことを夢璃に言うんだよ! 本当に夢璃の妹なの!?』

 そんな妹の悪辣な態度に、水中での泳ぎを激しくさせることで司が憤りを主張する。

『夢璃は役立たずじゃない! 優しくて、気が利いて、良い子なんだから! 術は使えなくても、霊力だって強いんだから!』
(司も優しくて、一緒にいると心強いよ。それに、私の代わりに怒ってくれるだけで、すごく嬉しいの)

 夢璃の代わりに、司がそばで怒ってくれる。当然日葵に司の声は聞こえないが、ささやかなことでも彼女は勇気づけられていく。

(でも、お払い箱になる私は、どうなるんだろう。追い出されるなら司も一緒が良いな……)

 今後の行方について夢璃が不安に感じていると、日葵が意地の悪そうな微笑みを見せた。
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