陰陽現代事情

第1話 三人の現在

 2009年1月 東京。

 ここ日比谷公園には、職を失った多くの派遣労働者が集まっていた。金融危機のあおりを受けて突然解雇され、会社の寮を追い出された労働者たちは、路頭に迷った末、ここにやって来た。
 炊き出しのボランティアをしていた津宵恩奈(つよい おんな)は、過去に自ら放ってきた言動を思い起こし、後悔の念に苛まれていた。左上位から右上位へと、時代の波に便乗して寝返ってきた津宵。気がつけば津宵は、そうした組織に身を置いて、都合のいい論理を吐き、国民の政治意識をことごとく根こそぎしてきたのだ。こうしたボランティアに参加するのは、そんな過去の自らの言動によって引き起こされた、現在の惨状に対するせめてもの償いだった。
 津宵は、解雇と同時に寮を追い出した企業に対して抗議し、政府に対して雇用保険法の改正を求める大勢の若者の姿を見て、救われる思いがした。社会的不満に対して声を上げることの大切さが認識されつつあったのである。それはまたこの社会が、右上位や左上位の邪悪な呪縛から解けつつあることの、何よりの証だったからだ。
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