陰陽現代事情

第8話 晴明の悩み

「あ、ああ。特訓してたんだ。政治の呪術の」
 晴明は父親に、そう弁解した。
 晴明は夜中に空き地で、必死に呪文を唱えていた。それを気にかけた父親は、晴明のもとにやってきたのだった。
「なあ父さん、いくら呪文を唱えても、学校が壊れないんだ」
 晴明が父親にそう言うと、父親は、不思議そうに晴明に聞いた。
「お前、もしかして、学校の校舎を壊そうとしてたのか?」
「うん」晴明は答えた。
 すると父親は突然、大笑いをした。
「ハハハ。お前にはまだ無理だ。その小さい体ではな。呪文は何と唱えたんだ?」
 父親は晴明に尋ねた。
「“学校なんかなくなっちまえ”って」
 晴明は答えた。すると父親はこう言った。
「いいか晴明。政治の呪術っていうのはな、学校の校舎を壊すためにあるのではないのだ。学校という教育制度を壊すためにあるんだ。父さんはな、理不尽な規則で縛りつけ、生徒の自由を奪っている学校など、必要ないと言っているのだ」
 晴明は父親の顔を見つめていた。父親は続けた。
「晴明、学校がなくなれば、毎日遊びたい放題だぞ~!勉強なんかしなくてもいいんだぞ~!晴明もそんな世の中を望んでいるんだろ?」
 父親が期待を持たせるような言い方をした。しかし晴明は、あくまで冷静だった。
「確かに勉強なんかしたくない。もっと遊びたい。だけど学校がなくなればいいっていう問題じゃないと思うんだ」
「なんだお前。学校がなくなって喜ばないのか?じゃあなぜ学校を壊そうとしていた?」
 父親が不思議そうに尋ねた。
「友達に頼まれたんだ。学校を壊してくれって。なあ父さん、助けてくれよ!学校を壊さないと、ぶん殴られる!!」
 晴明が父親の腕をつかんだ。
「なぁ~んだ、そんなことか。じゃあ、こう答えてやれ。“すぐには壊れない。呪文を唱え続けることで、少しずつ壊れてくる”と」
 父親が、晴明の悩みを深刻に受け止めようともせず、むしろ笑顔を浮かべ、答えにもならない答えで晴明に言った。
「ほら帰るぞ!晴明」父親が空き地をあとにしようとした。
 晴明は不満そうな表情をしていた。
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