婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~

そうしてしばらくお母様と談笑していたら、ずいぶん慌てた音を立てて玄関が開いた。リビングに顔を出した翔くんの表情はなんともいえないもので、私とお母様で「おかえりなさい」と迎えると頭を抱えてしまった。

「母さん! 急に尋ねてくるのはやめてください。俺は成人した大人ですよ。安否確認って…心配されなくてもちゃんとやってます!」

まくし立てる翔くんの言葉に私はひとり驚く。お母様、一人で暮らす翔くんの安否確認にいらっしゃったのね。

「親からすればいつまでも子どもなんだもの、心配くらいさせてくれてもいいじゃない。 ねぇ、小春さん」
「そうですね。私も成人しても弟のことはずっと心配しています」

顔を見合せて笑う私たちに、翔くんは盛大にため息をついた。

翔くんの姿を確認して目的を果たしたお母様は、お茶を飲み切るとすぐに帰っていかれた。カップを片付け夕飯のパスタを茹でていると、スーツから着替えた翔くんが申し訳なさそうにする。

「すみません、母がお騒がせして。 何か妙なことはされませんでしたか?」
「妙なことって…楽しくお話したよ。明るくて話しやすいお母様だね。翔くんがとても大切みたい」
「あれをそう思ってくれたのなら良かったですが……」

翔くんからすると少し過保護にも感じるのかもしれない。それでも、お母様を外まで見送ったりと大切なのは彼も同じなのだろう。
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